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過去編Ⅰ―13年前
きらきら、きらきら、空に舞って消えてゆく光の波。
少年が初めてみた魔法は、御伽噺の中の様に美しく、彼を魅了した。
青い髪の、光の波を生み出した本人は、瞳を輝かせる少年を見て微笑んだ。
「いつか、お前にも出来る日が来るかもしれないな」
「本当!?」
「適性が無いからわからんが、頑張ればこの程度は出来るだろう」
「そっかぁ」
少年はわかりやすく肩を落としてから、名残惜しそうに消えゆく光の粒を眺める。
「僕にもエイトみたいな光属性の才能が欲しかったなぁ」
「才能じゃない、努力だ。俺はお前みたいに本当の才能も膨大な魔力も無かったからな。師匠に怒られながら必死になったもんだぞ」
青い髪の魔法使い、エイトは、拗ねる少年を諭して二人の暮らす家へと入った。
「さ、今日から魔法の勉強だ。甘くないから覚悟しろよ?」
簡素な部屋の古びた椅子に腰かけた少年に、エイトは一冊の本を手渡した。
「ほれ、とりあえず今日中にそれを頭に叩き込め」
「ムリだって、こんな分厚いの。まだ文字を読むのも精一杯なのに」
「つべこべ言わない」
「エイトのきちく」
「どこでそんな言葉覚えたんだよ。ただでさえない可愛げが減ってるんじゃないか、クロノ」
「しらない!」
二人が住む村は、王国の東端に位置する小さな村だった。
広大な森を背後に隣国と接し、もし戦が起ころうものなら真っ先に火の海になるような、そんな危険を持った村。
それゆえか村の大人達にはどこか張り詰めたような、あるいは怯えきったような雰囲気があった。
エイトは、そんな村で唯一の魔法使いだった。
多くの魔法使いは王都に集まる中で、あえて辺境の村に身を置く彼は間違いなく変わり者だ。魔法使いとしての仕事も、地位も、金銭も望めない村で、エイトは小さな家をもってクロノを育てていた。
青い髪に青い瞳のエイト。
対してクロノは髪も瞳も混じりけの無い黒。
クロノが物心着いた頃から親として居た彼。
二人に血の繋がりがないことを、六つになったクロノは確信していた。
それでも実の親の様に接してくれていたエイトに真実を尋ねるだけの勇気を、その頃のクロノは持ち合わせていなかった。
ただどことなく二人の関係がぎくしゃくし始めた頃。
エイトは読み書きが出来るようになったクロノに、自身の持つ魔法の知識を教え始めたのだった。




