17
ギノアは黙ったままのクロノをちらりと見る。
手にした書類の入った封筒を握り締めて俯くクロノに、ギノアは何と声をかければいいのかわからなかった。
「せ、先輩……とりあえず座りませんか?」
ティーセットを置いた机の近くの椅子を指したギノア。
その提案に答えることなく、無言のままクロノはギノアの手をとった。
「先輩?」
「なんで、会おうと思った」
「えっと、そのぅ」
口ごもるギノアにクロノは握った手に力を込める。
「俺には言えないのか?」
寂しそうな、悲しそうな、そんな声にはっとしてギノアが見たクロノは、今にも泣き出してしまいそうな瞳でギノアをまっすぐに見つめていた。
「……っ」
大切な人を傷つけているのが自分だという目の前の現実にギノアは酷くうろたえ、けれど理由を話すのも勇気がいる。
どうしようかと悩み言葉につまるギノアを見て、クロノは握っていた手を離す。
そのまま後ろを向いてクロノは立ち去ろうとした。
「待って!」
――…気づけばギノアはクロノの腕を引き寄せて自分より小さな身体を抱きしめていた。
「言うから、いなくなんないでください……」
情けない声でそう言うギノアにクロノは息を呑んだ。
「いなくなんのはお前の方だろ」
「え?」
悲しげに言われた予想外の言葉に、ギノアは思わずクロノの顔を覗きこむ。
その距離が思ったより近くて、自分でやっておきながらギノアはすぐに顔を上げた。
けれどほんの少しだけ見えたクロノの表情は見覚えのあるもので、ギノアは抱きしめる腕に力を込めた。
自分を通して誰かを見ている、そんなクロノの表情が嫌で、自分がここにいるんだと示すように強く、固く。
そうしてクロノを抱きしめていると、なんだか安心して、なのに心臓は煩くて。
ギノアは不思議な心地に身を委ねながら、悩む必要なんてないことに気づいた。
だってこの気持ちは、何もしなくても勝手に溢れてしまうのだから……。
「先輩、お願いされても離れないんで安心してください。
俺、誰より一番に先輩が好きっすから、先輩とずっと一緒にいたいんすよ」
「ずっと……」
「そう、ずっと」
「……」
「信じられないっすか?」
クロノの顔を覗きこんで今度はしっかりと目を見て微笑むと、クロノは恥ずかしそうに頬を赤らめてから、呆れたように盛大に溜息を吐いた。
「信じる」
小さな、呟くような声だったが、しっかりとそれはギノアの耳に届いた。
「先輩大好き!」
「……おう」
嬉しそうに笑うギノアにつられて、クロノもほんの少し、頬を緩めた。
昨日更新出来なかった分まとめて更新してすみません…




