16
クロノのその言葉に誰よりも早く反応したのはリリスだった。
「あんたもです!常々警備の関係上一階には長居しないよう言ってましたよね?
なのに朝っぱらから……もう昼ですよ?あんだけ言ったんですから上の階にいると思って上から探したのに結局一階にいるって!私の時間と労力を返してくれません!?」
「あー、その、悪かった」
ウィルソンを指差して捲くし立てる姿は、悪さをした子供を叱り飛ばす母親のようだ。ウィルソンの方もこころなしか小さくなって見える。
二人の上下関係は明らかに逆転していた。
ギノアが不安そうなクロノとリリス達を交互に見ておろおろとする。
そして、意を決したように両の手を握り締めてから口を開いた。
「お、俺が王様に会いたいって言ったからっす!だから王様は悪くないっす!」
「……は?」
「ば、場所もっ、上の階だとただの魔法師団団員の俺には入れないとこばっかですし!それで、誰でも入れるけど人は滅多に来ないとこってことでここに……」
段々と下を向いて俯いていったギノアに、リリスは優しく声をかけた。
「貴方が謁見の申し出をした話も、それをあの馬鹿が二つ返事で許可したのもその日に聞いていました。ただ、翌日いきなり何も言わずに強行するとか、謁見の間を使わなかったとか、しかもこんな長時間とか……貴方はともかくこの人にはしっかり反省してもらわなければいけません。なので貴方が気に病むことはありません。全部この人の自業自得ですから」
「え。あ、そう、すか?」
それに、と言ってウィルソンに向き直ったリリスの顔はギノアへ向けていた優しさの欠片も感じさせない冷徹で、それでいて怒りに燃えた表情をしていた。
「朝、私の部下が貴方の執務室の机の上に放置されていた書簡を持ってきましたよ。隣国の使者が明後日来るそうで?」
「あー、そういえばそんなこともあったか?」
「届いてからどれだけたってたと思ってます?使者の件はまだ日程が決まってないとばかり思ってましたよ?届いていた書簡の中にこんな大事なものがあったなんて一言も聞いてませんけど?普通準備を取り仕切る私に話しますよね?」
「……仰る通りです」
疑問符攻めのリリスは見ているだけのギノアまで青くなるほどの迫力だった。
「なんで忘れ去ってたのかは追々聞きますけど、今は急いで準備です!あちこちに話を通さなければいけないんですから貴方にも働いてもらいますよ!」
がしっとクロノの時のようにウィルソンの腕を掴んだリリスは、ウィルソンを引きずるように扉へ向かって歩き出す。
「では失礼しますね」
「あっ、話の途中で悪い、ギノア!」
「い、いえ!」
「その……ク、クロノもっ」
「……」
戸惑ったままの二人を残し、リリスはウィルソンを引きずって出て行った。
扉の前に居た騎士達も後を追い、サロンは一気に静寂に包まれた




