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何となく、否、確信を持っていた。
クロノは鬼気迫る表情のリリスが説教している人物から視線を外す。
掴まれたままの腕は硬く、逃げ出そうとするクロノを引き止める。
突き刺さる向こうからの視線は移る気配が無く、リリスの話は右から左に流れているようだ。
「あの、聞いてます?聞いてませんよね?あんたが常日頃からうざったいレベルで会いたがってる彼を連れて来てあげたんです。気が済んだでしょう?
仕事してくださいよ、オ・ウ・サ・マ?」
「リリス、その王様呼びはよしてくれ、何だか怖いからな」
苦々しそうなその声すらもクロノの胸の奥をざわつかせる。
一人では抱えきれないほどの、爆発しそうな感情を押し込めるようにクロノはぎゅっと目をつむった。
蘇るのは嫌な記憶ばかり。
けれどふと、それらと一緒にクロノの脳裏を過ぎったのは、無邪気な笑顔。
不安なとき、いつも抱きしめてくれる、安心する腕。
「――…先輩」
小さくて零れ落ちたようなその声は、クロノが今、聞きたかった声だった。
顔を上げた先、扉の前に居たのは、トレイにティーセットをのせたギノア。
「ギノア!?」
「わ、えっ、はい!」
驚いたのか口が半開きの何ともアホっぽい顔のギノアは、クロノの姿をとらえた後、その掴まれたままの腕に視線を移した。
そしてぶすっと頬を膨らます。
ティーセットを近くにあった机の上に置くと、ギノアは小走りでクロノに駆け寄った。
「ちょっと失礼するっすよ!」
そう言うとギノアはリリスの手を無理矢理クロノから引っぺがす。
「ちょ、痛いじゃないですか。言ってくれれば離しましたよ」
「うぐ……すみません、つい」
リリスの怒りの矛先がギノアに向き始める。
状況を飲み込みきれないクロノは、さらっとすぐ隣に来たギノアと眉を吊り上げたリリス、そして最後に困り顔のウィルソンを見た。
なぜここにギノアがいるのか、なぜ現王はそれを当たり前のように受け入れているのか。
混乱する頭でクロノはギノアに問うた。
「お前、なんでここに?」




