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「えっと……俺、仕事あるから」
何かを企んでいる気配ムンムンなリリスから逃れるべく、クロノは手に持っていた書類を利用することにした。
いくらちょっと強引だとしても、仕事がある以上は手を引くと考えたのだ。
しかしリリスは書類に視線を落としてから首を傾げる。
「あれ?サロンの方見てましたよね?立ち止まってましたし……時間はあるんじゃないですか?」
「……気のせいだろ」
リリスは確信犯だった。
クロノが苦し紛れに言うも、リリスは聞き流す。
「こっちも急いでるんで大人しく付き合ってくれません?」
さらっと出た低い声音に固まるクロノに、あははーとリリスは笑って誤魔化した。
クロノの中でリリスの要注意度、危険度、猫被ってる度がぐんぐん上昇していく。
「ことわ……」
「断るわけない?ありがとうございます、お優しいんですね!」
「言ってない!」
「さ、行きますよ!」
「まてってば!」
ほんの少しのやり取りの内にどこかげっそりしたクロノの腕を掴むと、細身の身体からは想像できない怪力でリリスはクロノをひっぱる。
クロノの制止はスルーだった。
サロンの前にいた騎士達は、向かってくる人物の顔を見て縮み上がった。
「リ、リリス様っ!」
騎士達は焦った様子で互いに顔を見合わせる。
そして一番立場の低い若い騎士が先輩騎士に「いけ」と目で言われ、ガチガチに固まりながらリリス達の前に立ちはだかった。
「そこ、どいてください」
「ひぃ!す、すみませんっ!」
若い騎士はリリスの放つ殺気に顔を青くしながらもその場を退きはしない。
というより、前方にはリリス後方には先輩騎士達とどちらにしても恐ろしく、
動きようが無かったのだ。
クロノはその騎士を哀れみの目で見つつ、この隙に逃げられないかと掴まれた腕を引いてみる。
「……チッ」
びくともしなかった。
むしろ無理矢理引っぱったせいで腕をちょっと痛めた。
「あなた達、何のつもりですか?いい加減にしないとちょっと怒っちゃいますよ」
「もう怒ってますよね!?」
「殺されるっ!」
「わかってくださいリリス様ぁ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
リリスの垂れ流すどす黒い殺気と悪魔の微笑みに騎士達は全員降伏状態だ。
若い騎士は涙目で謝り続け、先輩騎士達も顔色が悪い。
もうちょっと頑張れよ!と言うクロノの心の叫びが口に出る前に、リリスはクロノを連れて進みだす。
リリスの通った後の騎士達は力なく地面に突っ伏していく。
そんな騎士達には目もくれず、リリスはありったけの力を込めて、八つ当たりするかのようにサロンの扉をバーン!と開け放った。
「お仕事の時間ですよっ!!!」




