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リリスは主への嫌がらせとして今日は休んでしまうなり遅刻してしまうなりしようと考えた。けれど自分がいない状況で、部下が何だかんだ気分屋な王の手綱を引けるとは思えず、結局いつもより本当に少しだけ遅くに王宮に向かうに止まった。
……が、さっそく休まなかった事を後悔している。
「明後日!?何の冗談です!?」
「す、すみませんっ!!!」
仕事を始めるなり駆け込んで来た部下の一人が持ってきた書簡に目を通してリリスは思わず叫んだ。目が血走っている。
リリスのその鬼の如き形相に部下は涙目になってひたすら謝った。
「……申し訳ありません、取り乱しました。貴方は何も悪くありません。
全部、何もかも、総て、丸ごと、一切あますところ無く、悪いのはあの人です」
「す、すみません」
書簡をぐしゃりと握り締めて真っ黒なオーラを出しながら「は、ははははは」と笑い始めたリリスは、最早何かが吹っ飛んでしまったようだ。
思わず部下が数歩後ずさると、リリスは怪しく光る瞳を部下に向けてにっこりと微笑んだ。
「今、あの人はどこです?何してるんですか?」
「そ、それがわかりませんっ!近衛騎士と共に気づいたらっ!」
「はあぁぁぁっ!?」
「い、今手の空いている者全員で全力で捜索中です!」
それを聞いてリリスは書簡を勢いのまま床に叩きつけた。
「結構!もう全員仕事に就かせなさい!こうなったら時間も人員も惜しいです!
私が探しに行きます!」
「は、はい!」
リリスは床に叩きつけた書簡を自ら拾って部下に押し付けると、殺気だらだらに飛び出していった。
・・・・・・
騎士団の拠点は二つある。
王宮に魔法師団詰所とは東西分かれて置かれたのがそのうちの一つで、主に騎士団の上層部や近衛騎士の拠点だ。
クロノはそこに向かう道すがらの人気の無いサロンの一室を目指していた。
王宮内にサロンはいくつもあるが、そこは昔……それこそ前王の時代から利用者が極端に少ない。
理由は単純、“出る”と噂なのだ。
病気で若くして亡くなった姫の怨霊だとか、はたまた王の怒りをかって首を飛ばされた騎士だとか、様々言われている。
さらに革命の時、王宮も戦場となった。
そのとき命を落とした者の霊が出る、という説も有力らしい。
一部のオカルティックな物好きは堂々と足を運んでいるらしいが、大抵の者はそのサロンに近づくことも避けている。
騎士団はそんな場所が近くて可哀相だよね、と以前レイルは清々しいほどの笑顔で言っていた。
クロノが騎士団へ届けるよう預かった書類はまだ非公開のもの。
一応人目を避けた場所で中身を覗かせてもらった方がいいだろうと考えてクロノはサロンに向かった。
決して「行きはゆっくりでもいい」というレイルの言葉の通りに書類を見た後ほんのすこーしだけ休んで行こうとか、そういった理由で人目の無い場所を目指しているわけではない。
クロノは若干軽やかな足取りで廊下を進むのだった。




