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「今回の件、アイジスは君にはまだ何も知らせなくていいって言うんだ。個人的に僕はそれに反対なんだよ。クロノはもう、陛下を守る側の人間だって信じてるからね。積極的に“忠義の徒”の撲滅に力を貸して欲しいんだ」
「……」
まっすぐとクロノの目を見てそう言ったレイルに、クロノは何も返せずに口をつぐんだ。
今のクロノがウィルソンをどうこうしようと考えていないのは確かだ。
けれどそれは、仮にウィルソンを殺しても何にもならないとわかっているから。
ウィルソンを殺しても彼にとっての“王”が還って来ないことも、心の穴が埋まらないことも、罪が消えないことも……。
それでも漠然とした、けれど自分でもどうしようもないほど強く黒く醜い感情が消えたわけではないのだ。
クロノにとってウィルソンは、王でもなければ守るべき人でもなく、未だ“許しがたい”相手であった。
「“忠義の徒”は消すべきだ。けど、守るとかは……」
「今はそれでもいいよ……現状大事なのはアイジスへの嫌がらせだから」
さらっと聞こえた発言にクロノは思わず顔を上げ、すまし顔のレイルに苦笑した。
「とうとう認めたな」
「おっと、つい口が正直に」
「アホらし。では副団長殿、この書類をゆっくり騎士団に届けて昼を食べたら戻ってきますね」
「うん。行きはゆっくりでも構わないけど、帰りは早めにね?わざとゆっくり仕事してるのわかってるんだからね?」
「……了解です」
パタン、と扉が閉まり、一人になったところでレイルは息を吐いた。
「お茶飲みたい」
ぽろっと零した言葉に、色々と立て続けだったせいで溜まった仕事への嫌気が湧き上がってしまう。
いくら嫌がらせを仕掛けようと、それが実を結び娯楽となるのはまだ先のこと。
部下の手前取り繕っていたレイルの不真面目な部分が顔を覗かせた。
こうなっては一度リフレッシュしないと集中できないことは経験上わかっていたレイルは、迷うことなく書類を放棄した。きりのよさなど無視である。
お気に入りのカップで軽いティータイムを楽しみながらレイルは先ほどのやりとりを思い返した。
「あとちょっとかな」
気にかけるのは、まだ子供な彼が前に進めているかだ。
魔法使いは才能の世界。
魔法師団の年齢層は騎士団に比べてはるかに若く、クロノもまた、歳で言えば大人になってすぐ。中身はまだまだ子供だ。
先ほどの様子でそんな彼が以前より成長しつつあるとレイルは感じ取っていた。
進もうとは思っているがまだ一歩は踏み出せていない、といったところかな?
おおよその理由はわかるが、レイルは口を出さないことにする。
「そういうのは僕じゃなくて彼の役目だもんね」
レイルはまっすぐな背中を思い浮かべて微笑むと、それを誤魔化すようにカップに口をつけた。
クロノが帰るまでまだ時間はある。
密かなティータイムは終わりそうに無い。




