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レイルの手伝いを始めてから数時間、クロノはまだアイジスを訪ねられていない。
原因はクロノの仕事が遅いから……だけではなかった。
レイルの仕事が次から次に増え、結果クロノの仕事量も増えたのだ。
先ほどからレイルあての書類を持ってきたり、用件を話しに来る団員が後を立たず、完全な人員不足を起こしていた。
塵も積もれば山となる。
すでにクロノにまわされる簡単な仕事も順番待ち状態だ。
とても一日では片付きそうも無い仕事量で、優先するよう言われたものから片付けていると、クロノの腹の虫が鳴く時間になってしまった。
「あぁ、すまないね。先に昼にしてきていいよ。僕はきりがいいところまでやってしまいたいから」
そう微笑みながら言ったレイルの手元は、まったく笑えない惨状だ。
後一歩で誰かさんの執務室のごとき書類の山を築きそうな勢いである。
「なんでこんなに仕事が多いんです?」
「昨日やれなかったから。僕は捕まえた団員と話したり、報告書を作ったり忙しくて。僕だってアイジスほどじゃないにしても多忙だからね」
「……何か成果あったんですか?」
「まぁ、うん。あったにはあった、かな」
「ハッキリしねぇ」
思わず素で反応してしまったクロノに、レイルは申し訳無さそうに肩をすくめた。
「事が事だからね。まだ、一魔法師団団員には言えないってことだよ。ごめんね」
「……」
一魔法師団団員、という言葉にクロノは眉間に皺を寄せた。
確かに今は一介の団員に過ぎない。
けれど今回の件、クロノは少なからず関わっている当事者でもある。
“忠義の徒”の実情について知る権利くらいはあってもいいのではないか、というクロノの不満は隠しようもなく表情に表れてしまう。
「ふふ、顔が凄いことになっているよ。ごめんね、意地悪だったかな?
でもどうしようもないし、って言ったら、君のことだから放っておいたらアイジスにでも聞きにいきそうだ。それだと忙しい団長の邪魔になってしまうね」
妙に演技がかった様子で「どうしようか」なんて言って考える素振りをするレイルに、クロノは神経を逆撫でされた気分になった。
「つまり何が言いたいんだよ?」
クロノの問いに、待ってましたと言わんばかりにレイルは厚みのある封筒を机の引き出しから取り出す。
「あぁそういえば、騎士団へ届けないといけない“忠義の徒”に関する情報が書かれた書類、出しに行く暇がないなぁ。誰か届けてくれないかな?」
「自分が騎士団に行きたくないだけだろ?」
そう言いながらクロノは封筒をレイルから受け取る。
「何のことかな?僕はただ、便宜上情報開示のシステムがあるだけで、自分たちは開示要求しても情報開示しないくせに、僕らには王の近衛であることを盾に情報を寄越せって言ってくる能筋に時間をさけないだけさ。
決して騎士団に行きたくないとか、昨日何の手伝いもせずに先に帰ったアイジスへの嫌がらせとかではないんだからね?」
「そんな意味もあったのか……」




