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「じゃあ失礼します!」
そう言ってギノアはぐいぐいとクロノの腕を引っ張って詰所の中へと進んで行く。
二人の姿が完全に消えたところで、ウィルソンは呆気にとられているアイジスに聞いた。
「なぁ、あの青年はなんというんだ?今まで見たことがなかったが」
「ギノアのことですか?先ほどお話した、クロノに任せている新人ですよ」
「……そうか」
ウィルソンはアイジスの報告を思い返した。
サボり気味だった仕事をするようになったのは、ギノアの影響だと言っていた。
そして今の、ギノアの行動で自身の前でも自然な姿へと戻ったクロノ。
どうやらクロノはギノアに確かに変えられているようだ。
素直にそれを喜べないのは、ギノアのクロノへの視線に自身と同じものを感じてしまったからだろうか。
たまらず、ウィルソンは口元を隠した。
「まったく、笑えんな」
そう言いながらも細められた瞳は何を思ってなのだろうか。
アイジスはそんな王の姿に苦笑する。
つくづく面倒な御人だ。
あれだけ嫌われているのをつきつけられ、さらには恋敵まで現れて。
きっぱりと諦めてくれた方が気苦労も少なくて済むというのに、めげる気配は微塵もない。
まだまだ続きそうな厄介な状況に、アイジスは深い深い溜息を吐くのだった。
・・・・・・
人もまばらな詰所の廊下の角をまがった所で、クロノは足を止めた。
腕を引いていたギノアも、引っ張られるように足を止めてクロノを振り返る。
「先輩?大丈夫っすか?」
「――…ギノア」
「はひっ!?」
声をかけたギノアをクロノは何の前触れもなく抱きしめた。
背の高いギノアの胸にクロノが飛び込むような形になり、不意打ちにギノアは頬を染めてあたふたすることしかできない。
「あのっ、え!?先輩!?」
「……」
何も言わずにクロノはただギノアを抱きしめる腕に力を込める。
「クロノ先輩……」
触れた身体が微かに震えていることに気づいたギノアは、そっとクロノの背に手をまわす。脆い、子供のような彼を支えるように、守るように、慈しむように。
何も知らずとも、何も語られずとも、今腕の中にいる大切な人が傷ついているのは確かで。
できることは少なくて、役になどたっていないかもしれない。
それでも不器用に、自分を頼り支えを求めてくれているならばと、ギノアは精一杯の思いを込めて震える身体を抱きしめる。
「大丈夫っすよ。俺はここにいますから」
「ギノア」
「はい」
「ありがと」
「~~~~っ!!!」
恥ずかしくなったのか頭をギノアの胸にぐりぐりと押し付けながらも、クロノは小さな声で言った。
その姿に、その言葉に、ギノアの心に愛しさが湧き上がって溢れ出す。
ギノアは想いをクロノに伝えたくてたまらなくなり、抱きしめる腕に力を込める。
「先輩好きっ!」
「はいはい」
「ちょ、雑!!!」




