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花のない薔薇  作者: 愁
第三章 一歩
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 ウィルソンが近衛騎士と魔法師団詰所訪れたのは、争う音が消えてまもなく。


連絡を受けて出迎えたアイジスは内心「またか」と苦笑しつつも、快くウィルソンを招き入れた。

目の前にいる王の真意を即座に汲み取ったアイジスだが、表面上は今回の作戦の成果について尋ねられた事になっている。


なるべく早くお帰り願わなければ厄介な事になりかねない。


アイジスはさっそく表面上の本題について話し始めた。


「今回の作戦で目星をつけたのは計8名。全員無事確保の報告を受けています。

その他に怪しい動きをした者、逃げ出そうとした者はいませんでした。

後は捕縛した容疑者に聞くしかないかと。

色々と騒がしくしたうえ、一部宮内を破損させてしまい申し訳ありません」


「いや、今回の作戦がなければいずれ事を起こされていただろう。その程度は構わない」


「そう言っていただけると幸いです」


「あぁ」


「……」


「……」


表面上の本題しか言われていないアイジスは、決してそれ以上しゃべらない。

たとえ分かりきっていたとしても、王の心中を勘ぐるのは不敬だからだ。


そんなアイジスに業を煮やしたウィルソンは、恥ずかしそうに、申し訳無さそうに、視線を外しながら小さく言った。


「……その、あいつはどうしている?」


あいつ、という抽象的な言い方につっこむほどアイジスは野暮ではない。


「変わりありませんよ。相変わらず仕事はサボってばかりです。

でも、そうですね……あいつに教育を任せた新人の影響か、嫌々ながらもするようにはなってきていますね」


「そうか、上手くやれているならいい。先日怪我をしたと聞いたが、大丈夫そうか?」


「陛下もご存知でしょうが、副団長のレイルは治癒魔法にかけては最高峰といえる腕前です。痕も残っていないですから、ご心配なく」


そう聞くと、ウィルソンは安心したように肩の力を抜いた。


ただ、とアイジスはウィルソンに言う。


「あの“忠義の徒”の男は元あった魔法師団の団員で、あいつのことも知っていたそうです。これは本人が言っていた話ではありませんが、恐らく勧誘にあったのかと」


「勧誘……そうだな。あいつほど“忠義の徒”にふさわしい者はいないのかもしれないな。やはりまだ、俺を許してはくれないのだろうか……」


自嘲気味に苦笑しながら、否定など求めていない問いを投げかけるウィルソンに、それでも否とアイジスは首を横に振った。


「そのまま“忠義の徒”に参加することもできたはずです。けれどそうしなかったのは……」


「多少は、期待しても良いのだろうか?」


「どうでしょう。けれどあいつも、昔のままでいるわけではないと思いますよ」


そうであって欲しい、というのが本心ではあった。

アイジスから見て、確かにギノア達と共にいる間の彼は今を生きている。

けれど、特にウィルソンの話がでたときなどの彼は……


どちらが本当の彼なのか、あるいはどちらも彼であるのか。


人の心はわからないものだと、アイジスは出かかった嘆息を飲み込んだ。

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