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魔法師団が動き始めた頃、執務室にいたウィルソンは心ここにあらずの状態で書類を片づけていた。
窓の外から聞こえてくる喧騒に今すぐにでも飛び出して行きたい衝動を押さえ込むも、自然とペンを持つ手に力が入る。
「書類が破けそうなのでそれ以上力込めてサインしないでくれますか?」
「……」
書類を受け取りに来ていたリリスがそう言うも、今日のウィルソンは静かに睨むのみだ。
「……はぁ」
重苦しい雰囲気の漂う執務室に、呆れたようなリリスの溜息が消えていく。
「あー、もう、これだからめんどくさい。
そんなに気になるなら後で魔法師団の詰所に足を運べばいいんじゃないですか?
どうせ書類はそこにあるだけですし、謁見の予定までには時間ありますし」
「行っても大丈夫だと思うか?」
「このやり取り何回目でしょうね。先日もそう聞いてきて結局行ってましたよね。しかも一人で。行きたいなら行けばいいでしょうが、うざいなぁ。
あ、でも騎士は連れてってくださいよ!」
「……あいつに会わずにすむだろうか」
「会いたいのか会いたくないのかハッキリしてくれませんかね!?」
リリスは綺麗に整えられていた髪を乱雑に掻きあげて苛立ちを示す。
めんどくさい主に構うストレスで、もういっそのこと辞職してしまおうかと軽くリリスが思ったとき、ウィルソンは重い口を開いた。
「会いたいさ。だが、あいつは違うからな」
「……」
ウィルソンは民の思うような完璧な人間ではない。
ただの人間らしく思い悩む事も、失敗を犯すこともある。
だが、愚かと思うほどに優しい人間だ。
今こうして、自分の望みと相手の気持ちを天秤にかけて悩めることがいい例だろう。
リリスはこの、王らしくなく、けれどこの上なく理想の王たる自分の主に、もはや溜息しか出ない。
明らかに革命後から老けた気がする。
そんな事を思いながら、リリスはどうにか無難な道を探し当てた。
「さっと行ってさっと帰ってこれば大丈夫ですよ。
彼はほとんど詰所にいないそうですから、団長のアイジスにでも彼の近況を聞いて満足なさってはいかがですかね?もちろん本題はスパイ捕縛の報告を聞くということで」
「そうか……確かに前回行ったときも会わなかったしな。姿を見れないのは残念だが仕方がない。しかしあいつのことを聞いても、その、怪しまれないだろうか?」
「いや、怪しむも何も、彼への好意なら駄々漏れですが?きっとアイジスも気づいているかと」
「……俺はそこまでわかりやすいのか?」
「いえ、彼のことに限ってですかね」
「想いが強すぎたか」
「ふつーにキモイんでそこ受け入れないでくれます?」
一段と冷徹極まるリリスのツッコミはウィルソンの耳には届かなかった。
計画も立ったところで、よし、と気合を入れなおし、ペンを握って書類にとりかかるウィルソン。
「いや、あのだから、書類が破けそうなんで力込めてサインしないで下さいよ」




