27
後始末があるというルーエンと別れ、二人は魔法師団詰所へと戻ることにした。
すっかり喧騒は途切れ、所々に争った跡がある以外、辺りは何事もなかったかのようだ。
少しの気恥かしさを抱え、互いに無言のままゆっくりと歩いて行く。
前をクロノが、その一歩後を追う様にギノアが。
以前と変わらないその位置関係が、クロノには不思議と心地よかった。
「今ごろ団長は大忙しでしょうね。お手伝いしないとですかね?」
「ほっとけばいいんだよ。俺らにできることなんかどうせ無いんだしな」
「はは、確かにそうっすね。お茶でも淹れましょうか」
「ん。そうだな」
そうしてぽつぽつと、たわいない話をして進む。
ゆっくりとした温かい時間。
胸の中が満たされるような感覚がむずがゆくてクロノはそっと自分の胸元をおさえる。
いつか、遠い過去に感じていたものとは違った“幸福”。
あの頃には考えもしていなかった今、現在。
もしかしたら、とクロノはギノアを振り返って考える。
もしかしたら――…
「どうかしました?」
「……いや、なんでもない」
ふいに浮かんだ思いを振り払うように、クロノは再び歩み始めた。
・・・・・・
「なんだ?」
魔法師団詰所に着いた二人は、入口に立つ二人の騎士を見て怪訝な表情を浮かべた。
今回の作戦に騎士は関わっていない。
レイルが嫌がることが目に見えていたから、というのもあるが……
「手柄の横取りでもしにきたか、アイジスの株でも下げに来たか?」
「むぅ……追い出しますか?」
騎士団と魔法師団は王国の二大戦力と言われているが、実際には魔法師団のほうが圧倒的な戦力を有している。
王の警護などの任をまかされている騎士団にとっては魔法師団は目の上のたんこぶ、というわけで、騎士団は事あるごとに魔法師団に文句をつけてくる始末。
その一環で「副団長は女か?」などとからかってくるため、レイルの騎士嫌いは根深くなったのだ。
クロノとギノアがどうするかと考えていると、詰所の中からアイジスが出てきた。
「あ、団長!」
「ギノアか……って」
呼ばれて二人の方を向いたアイジスは、ギノアの隣にクロノの姿を見つけると、隈の酷い目を見開いた。
クロノが意味が分からず眉間にしわを寄せていると、ばっと二人の騎士が入口の方に向かって礼をとる。
「――…どうした?アイジス」
その言葉とともに姿を見せた凛とした黄金に、今度はクロノが目を見開いた。
「お、王様!?」
驚いたギノアの声に気づいた黄金……現国王・ウィルソンが呆然としているクロノを瞳に映す。
「ク、ロノ」
賢王の仮面から零れ落ちた、驚きと幸せと愛しさと、後悔の情。
複雑な感情を宿した声音で名を呼ばれた魔法使いは、襲い来る深く黒い闇に飲まれていく――…




