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二人が着いたのは王宮のはずれにある魔法師団の詰め所。
魔法師団の活動の拠点である。
「失礼しますよー」
「あ、ちょっ、先輩っ!」
ノックもせずにクロノが開けたドアには“団長執務室”の文字。
中で大量の書類の山に埋もれていた、長い赤髪を一つにまとめた男が、魔道師団と王国にいる全ての魔法使いの頂点に立つ魔道師団団長・アイジスである。
「やっと来たか、クロノ。随分良いご身分だな、おい。
ご苦労だった、ギノア。さがれ」
「は、はいっ!」
切れ長の目を野獣の様にぎらつかせながら顔を上げたアイジスの顔は、随分とやつれ、目の下は隈がひどい。
せっかくの美丈夫が台無しであるが、アイジスに関しては仕事が忙しすぎてこれが通常の顔になりつつある。
周りはそのうち倒れないかとどれだけ長い間思い続けたかわからない。
結局なんだかんだぴんぴんしているから心配するだけ無駄のようだ。
「悪いがこの通り忙しい。話しはこのままさせてもらうぞ」
「別に構いませんよ」
どうせまたアイジスのお小言が始まるのだろうとクロノは肩をすくめた。
義理堅く真面目で曲がったことを嫌うアイジスは、事あるごとにクロノに説教をしている。
だがクロノはいくら説教しようとまったく正す気配がないのだから、普通の者ならお手上げだ。
そこで諦めないところにアイジスの性格が表れている。
宣言通りに書類から目を離さないままアイジスは話し始めた。
「用件は二つだ。
まずはわかっているだろうが、クロノ。お前はギノアの教育係だというのに、毎日毎日ギノアを放り出して書架塔にこもっているそうじゃないか。あいつは素質は新人一だというのに、今のところ覚えたのはお前の捜索と仕事の邪魔だけ。頭が痛いぞ」
「いやぁ、どっちも俺は教えた覚えないんですけど、凄いですねー」
「お前が何も教えんからそんなことしかやれんだけだ。他の者は手一杯の状況だというのに、仕事をせん奴が二人もいては邪魔なんだがな?ん?」
「……以後気をつけます」
書類の山から覗く怒気のこもった眼光が、居心地の悪そうなクロノに刺さる。
視線から逃げるようにあらぬ方向を見つめるその顔は、言葉とは裏腹に涼しげだ。
「まったく……。
二つ目だが、研究室の奴らがお前の手を借りたいそうだ。どうせ時間は有り余っているのだろう?この後にでも顔を出して来い。よかったな、マトモな仕事が出来そうで」
「まったくですね。あ、昼飯がまだなのでそれからでいいですか?」
「ふざけるなさっさと行け!」
有無を言わせぬ強烈なアイジスの咆哮に執務室を追い出されたクロノは、執務室の前で大人しく待っていたギノアを連れ立って、悠々と昼食をとりに魔法師団団員や騎士の利用する食堂へ向かった。
クロノが研究室についたのは、それから二時間後のことだった。




