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花のない薔薇  作者: 愁
第二章 賢王と愚王
35/142

22

心の叫びも、沈みゆく感情も、すべてお構いなしに時は進んで行く。


体の芯が凍えるような恐怖を抱えたクロノに、オウドーは尚も言葉を投げかける。


「それだけじゃない!噂じゃあお前は――」

「ちょっと、おしゃべりが過ぎるわよ。

クロノちゃんのことは、もう口出ししないでって言ったわよね?」


言いかけたオウドーの声を遮ったのは、意外にも冷たい口調のルーエンだった。


「私が聞いたのは“忠義の徒”に加担した理由だけ。それ以外は言わなくていい。

言いたいなら魔法師団の詰所での尋問中にしなさい」


クロノの心情を読み取ってか、ギノアとの間に入ったルーエン。

その表情は厳しいが、瞳は誰へのものか、哀しみを滲ませている。


「……今回の件、止められなかった私にも責任があるわ。だから怨むなら私にしなさい。それがせめてでも、私が上司として部下(あなた)にできることだわ」


そう、ルーエンはまっすぐにオウドーを見て言った。


「……」


オウドーは何かを言おうと口を開いたが、すぐに言葉を飲み込んだ。



やがて重い沈黙が続いた部屋に応援が駆けつけ、オウドーを連行して行く。


部屋を去る前、オウドーは一言だけルーエンに残した。

数人の魔法師団の団員に囲まれてオウドーは研究所を後にする。


研究室のドアを開けて遠巻きに彼を見ていた研究所の職員達は、眼鏡の奥で涙をためるルーエンの姿をとらえた。


「ルーエン……」

「大丈夫っすか?」


心配してくれる二人に、ルーエンは涙を拭って笑みを湛えてみせた。

ほんの少しだけ眉を寄せて、困ったような、やんわりとした微笑みを。


「えぇ、大丈夫」


どこかで道を別った人が、この先報われる日が来ることを願って。




・・・・・・


『――…貴方の部下になれてよかった』

 

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