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花のない薔薇  作者: 愁
第二章 賢王と愚王
34/142

21

・・・・・・


白煙立ち込める研究室内。

佇む人影は三つ。


「うぅ、先輩ぃ」

「こんなに白くなっちゃって……」


涙目のギノアと頬を拭ったルーエンの視線の先には――






「……ちっ」 


白煙の影響で髪まで白くなったクロノがいた。



オウドーが魔方陣で起こしたのは、やはり煙にとどまった。

が、今回の白煙は吸い込むと喉に少々ダメージを与え息がしにくくなるうえ、

被るとクロノのように白くなってしまう。ついでに涙も止まらなくなる。

それなりに厄介な代物だったのだ。それなりに。


当のオウドーはというと、ギノアに縛り上げられ床に転がされている。

彼自身もぼさぼさ頭を所々白く染め、げほげほと咳をしながらクロノたちを見上げていた。

丸眼鏡でどんな表情をしているかは見えないが。


「お前達、げほげほっ、許さないからな!うぇ、げほっ」


「あーはいはい」


「もう黙って大人しくするっすよ」


すっかり負け犬をあしらう態度のクロノとギノアは、こんな時まで失敗続きでなぜ研究室に入り込めたのかと呆れながらオウドーを見やった。



「なんで“忠義の徒”に?」


転がるオウドーにルーエンは戸惑いがちに聞いた。


「僕の叔父は元々この研究室の理事をしていた。なのに革命のせいで失墜して……見ていられなかったっ」


奥歯を噛みしめるオウドー。

その姿をみたルーエンは何も言わずに俯いた。


「だから、余計にその男は許せない!革命後も主を代えて居座り続ける裏切者!

どうせまた誰かを裏切ってのうのうと過ごしていくんだろう!?」


「……っ」


厳しい口調で責めるオウドーに、クロノはなにも言えない。


「せんぱい」


その声を聞いてクロノはハッとした。

少し視線をずらせばそこに、心配そうに見つめてくるギノアの姿が映る。


“裏切り”の意味を、知らずにいて欲しいと願う人。

ただ無邪気に自分を慕っていて欲しいと、心のどこかで願う人。


自分の不義が、無くならない過去が、まっすぐなその瞳に反射してクロノに突き刺さっていく。


純粋な白を、穢していく自身という闇。


押し寄せる真っ黒な感情の波の中、クロノは願った。






頼むから、もう何も聞かないで、現実を知らないままでいてくれ――…

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