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三日後、魔法師団詰所では大捕り物が行われていた。
レイルが一番始めに疑いをかけたギノアと同期の新人を呼び出し、あくまでソフトに色々聞いたところ“忠義の徒”と関わる、あるいは知らぬ間にスパイにされていた者の名前が次々とあげられた。
逃亡を阻止するために名前があがった人物を信頼をおける団員が一斉に捕縛しにかかり、結果、抵抗する容疑のかかった団員と、捕まえるために必死な団員の魔法によって魔法師団詰所の周囲は大混乱に陥っているところだ。
喧騒を横目にギノアとクロノが向かっていたのは研究所。
ギノアの足取りは重く、無理矢理クロノが腕を引いて歩かせている状況だ。
「せんぱーい……勘弁してくれないっすかぁ?」
気だるげで嫌であることをありありと態度に示したギノアの言葉は完全にスルーされる。
やがて見えてきた研究所の入り口には、かわりないピンク頭のルーエンが佇んで二人を待っていた。
「クロノちゃん」
「悪いな、ルーエン。いきなりで」
「いいえ、私も不甲斐なかった結果よ。ギノアちゃんも、来てくれてありがとう」
「は、はいっ」
クロノの後ろで身構えていたギノアは、悲しそうに笑ったルーエンをみてクロノの隣に移動した。
散々嫌がっていたギノアがびくつきもしないほど、目の前の彼は弱って見える。
「さ、中へどうぞ。地下には外の話は届いてないの。みんな揃ってるわ」
「……あぁ」
三人が向かった研究員の部屋からは、薄緑色の煙が漏れ出ていた。
つん、とする臭いは息を止めて引き返したくなるほど酷い。
「オウドー、少し良いかしら?」
ルーエンが薄緑色の煙の先に声をかけると、ぼさぼさ頭の研究員が咳をしながら歩いてきた。
「すみません、また失敗しちゃいまして」
丸眼鏡をかけた小さな顔があげられると、クロノをとらえて固まった。
「なんで裏切者が!?どういうことですか所長!?」
憎々しげに発せられた言葉にギノアがクロノと研究員・オウドーの間に割って入る。
「ごめんなさいね、オウドー」
ルーエンはオウドーから視線を反らして俯いた。
「オウドー研究員、あんたには“忠義の徒”と関わりがある疑いがかかってるっす。大人しく着いてきてください」
「なっ!?」
みるみるうちにオウドーの顔が青白くなっていく。
丸眼鏡でみえないが、きっとその瞳は大きく開かれていることだろう。
一歩、ギノアが踏み出すと、はっとしたオウドーは近くの机に置かれていた紫色の液体の入ったビーカーを掴んだ。
「来るなっ!!!これを魔方陣にかければ、辺り一帯瓦礫の山だぞ!!!」
オウドーは足下に書かれた魔方陣を踏んで叫んだ。
ギノアの体がぴしっと固まり、何か知っていそうなルーエンに視線を寄越すも首を横に振られてしまう。
なすすべもなくギノアはオウドーを睨み付ける。
オウドーはその姿をみて勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「馬鹿か、お前」
緊迫した空気の流れた部屋に凛とした声が響いた。




