17
王宮の最奥にある、現王ウィルソンの執務室。
そこに先程騎士団に捕らえられた元魔法師団の男に関する報告書が届けられた。
男の素性自体は元王宮勤務だったことともあってすぐに判明したが、肝心の“忠義の徒”に関する事は口を割らずに不明のまま。
情けない報告書にすらなっていないようなそれの本題は、破壊された街の建物の再建に出資してほしいというもので、ウィルソンは溜め息を吐いて紙の束を机上に放った。
彼が詳しく知りたかった事柄は不明のままで、機嫌は悪くなるなる一方だが“賢王”たるウィルソンは顔に不満を微塵も出さない。
「無事なんだろうな……」
思わず零れた言葉に苦笑する。
心配などされても迷惑に思うだろうなと、ウィルソンは嫌悪の情をありありと示す青年を思い浮かべた。
好意など欠片も望めない。
ましてやあの時の、想い人へ向けていた熱っぽい視線を手にいれるなんて不可能だろう。
弱みを利用して無理に傍に置いても、その心は傍にはこない。
抱きしめ耳元で愛を囁けば手に入るだろうか?
否だろう。
手に入らないから面白いなど言えない。
何時だって傍らで笑っていて欲しい。
許しを待っている時間さえもどかしく感じる。
「――クロノ」
呟いた名は広い執務室に響き消え、些かの虚しさを紛らわすようにウィルソンは仕事へ戻った。
つまれていた書類の山が片付いてきた頃、執務室をノックする音が響いた。
「入れ」
その返事を聞いて入ってきたのは、補佐官を勤めているリリス。
元騎士団副団長でウィルソンの第一の部下だった者だ。
現役時代もよくきれるその頭脳でウィルソンを支え、革命時はウィルソンを王にと推した一人であった。
夜空を切り取ったような深い藍色の髪は綺麗にセットされ、彼の几帳面さを伝えてくる。
リリスは幾つかの紙束を持ってウィルソンに報告した。
「例の元魔法師団の男の件で、魔法師団副団長より新しい進言があがりました」
「なんだ?」
「“忠義の徒”は王宮内にも刺客を紛れ込ませている可能性があり、一度洗い出した方が良いと。
元魔法師団メンバーが多数いるとみられることから、魔法師団内部も洗い出しを行うため少々騒がしくなることを断る旨も聞き届けました。
なお、これらはには箝口令をしき、僅かな者にしか知らせません」
「……了解した」
リリスはどこか肩を落として了解したウィルソンをみて「あぁそう言えば」と続けた。
「陛下が気にかけてる魔法使いですが」
「何かあったのか!?」
あまりに勢いよく食いついてきたウィルソンに若干呆れるリリス。
「怪我はしたそうですけど、治癒魔法で完治済みだと」
「あいつが魔法を使ったのか?」
「いえ、副団長のレイルが処置したそうです」
「そうか……」
わかってはいたが未だに魔法を自身に禁じている彼を想いウィルソンは顔を暗くした。
「めんどくさ」




