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何も知らずに笑いかけてくるこの存在を失いたくない。
クロノのそんな思いを汲み取ったレイルはその先を話す前に話を終わらせてくれた。
「うん、もうわかったから良いよ。とりあえず、怪我も少なくてよかった。
クロノ、これからはギノアをおいての独断専行は許さないから肝に銘じること」
「はい」
ぱんっと両手を合わせて区切りをうったレイルは、ギノアにアイジスにお茶を淹れて運ぶよう指示する。
「じゃあ、行ってくるっす」
ポットとカップをお盆にのせてギノアが部屋を出ると、レイルはまっすぐにクロノを見て言った。
「クロノ。君はその男と話して、どうしたいと思った?
やっぱりまだ、陛下を怨んでいるのかい?」
その問いにクロノは空笑いをして真っ暗な瞳をレイルに向ける。
「まだ、もなにもないでしょう?最初から怨んでなんていませんよ。
何もかも、壊したのは私ですから」
自嘲するように言った過去の亡霊に、レイルは辛そうに俯くしかなかった。
全て事実で、けれど単純に肯定できるものでもないのだ。
幼い彼がそうせざるを得ないようにしたのは彼の周囲の大人であったことをレイルはよくわかっている。
そして彼がそれを言っても受け入れないことも。
現在を生ききれない彼を救える人間は、もうこの世にいないのかもしれない。




