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「で、あとは少し待つ」
「は、はいっす」
ポットと睨めっこをするギノアを眺めた二人は思わず笑みをこぼした。
まるで「よし」と言われるのを待っている犬みたいだ。
「クロノはケーキをお皿に持ってくれるかい?」
「りょーかい」
レイルは普段端に寄せているサイドテーブルを運んでテーブルセットを始めた。
ずいぶんと本格的なお茶会になりそうだ。
一応は職務時間中であり、執務室でアイジスは書類と戦っているのかと思うと悪い気がしたが、それもまた優越感としてクロノの胸に返ってきた。
「あとでアイジスにもお茶を持っていってあげようね」
「あ、はい」
クロノの考えなどお見通しというようにレイルは提案した。
さすが、魔法師団副団長である。
あるいは元貴族の勘だろうか。
レイルは革命で解体された貴族家出身で、王都にそれなりの屋敷を持っている。
貴族の大半は位剥奪に反対の反革命派だったが、レイルの家はもともと商人上がりだったこともあり、あっさりと位を返上した。
あまりにも市場で名を馳せている商家だったため、位を持たなくなっても大きな損失は無かったそうだ。今でも大手商家として大いに活躍しているそう。
そんな家の一人息子がこんな所で働いていていいのかとクロノは偶に疑問になる。
元貴族のレッテルはレイルの嫌いな騎士しかり、色々な人を寄せ付けるのでレイルは普段家名を名乗らずに過ごしている。
笑みを絶やさない優しい雰囲気の彼だが、その実かなりの苦労人なのだ。
・・・・・・
「よし」をもらったギノアは、慎重にカップに紅茶を注いだ。
全てのカップに注ぎ終わると、やっと緊張から解放されたギノアは息を吐いて脱力した。
「じゃあそれをこっちに運んで」
「はいっ」
休む間もなくギノアはカップをそ~っと運んでサイドテーブルに置いていく。
「せ、先輩!どうぞ!」
「ありがとな」
「お疲れ様、ギノア。頑張ったね」
「頑張ったっす!先輩、頭を撫でてください!」
「やだ、めんどい」
即答に項垂れるギノアの肩をぽんと叩いてレイルは慰めた。
が、それが余計に負け犬感を増してしまうのだった。
「じゃあいただこう」
「わーいっ!いただきますっす!」
迷い無くチョコケーキにフォークをさして口いっぱいに頬張るギノア。
心底幸せそうなその姿を見て苦笑してからクロノはギノアの淹れた紅茶のカップを手にした。
ふわりと花の香りがして、飲まないまま香りを堪能していると、心配そうな表情のギノアと目があう。
不安げな目をしているのに、その口は依然としてチョコケーキを租借しているのがアホらしい。
一口飲むと温かさと共に香りが広がっていく。
ほ、と息を吐いたクロノに微笑むレイル。
「うまいよ、ギノア」
「やったぁっ!!!」
座ったままバンザーイ!と喜ぶギノアに、すかさずレイルは釘をさした。
「行儀が悪い」
「す、すみません……」




