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翌朝、もうほとんど人のいない時間の魔法師団の寮に、一匹の犬の可愛さの欠片もないモーニングコールが響いた。
「起きてくださいせ~んぱ~い~!」
ギノアがそう叫んでいるのはクロノの部屋の中……ではなく部屋の前。
昨日は成り行きで入れたものの、クロノには正式に入室の許可は得ていない。
鍵はかかっていなかったが、許可した者以外は入れないように魔法がかけられていたのだ。
つまり、許可を得ていないギノアは勝手に部屋に入ってクロノの寝顔を拝むことも、起こすついでに朝食を作って一緒に食べることもできない。
そう判断し、ギノアは妄想も程々に部屋の外から出勤時間を過ぎても出てこないクロノを起こすべく、こうして奮闘しているのだった。
15分ほど粘ると、部屋の中から不機嫌そうなクロノが、いつものシャツにズボンという格好で出てきた。
「うるさいっつの。そんなとこで大声だしてないでさっさと中入ればよかっただろーが」
面倒くさそうにそう言ったクロノに固まるギノア。
しばらくすると、じわじわと来た嬉しさに満面の笑みを浮かべクロノに抱きついた。
「うわ~っ!先輩ありがとうっ!大好きっ!」
「ばっ、いきなり何だよ!?離れろ、重いっての!」
「むふふ~、許可してくれたんすね~、へへへっ」
「キモい。」
何だかんだ言っても無理に引き剥がそうとはしないクロノに、ギノアは幸せがとまらない。
結局いい加減にしろ、と拳骨を食らうまでギノアはクロノに抱きつき続けたのだった。
・・・・・・
二人が仲良く遅刻して魔法師団の詰め所に行くと、入り口の前でレイルが待っていた。
「遅かったね、二人とも。さっそくで悪いけれど、ちょっと街までおつかいを頼めるかな?」
一応疑問系ではあったが、その細められた目は確かに語っていた。
『遅れてきたんだから拒否なんかしないよな?』と。
無言でこくこく頷く二人に、レイルは折りたたまれた紙切れを渡した。
「そこに書いてあるものを揃えて欲しいんだ。制限時間は午後三時まで。それまでなら街をぶらついても構わないけれど、物はきっちり時間内に僕の所まで持ってくること。今日中に必要なものもあるから、もれはないように頼むよ」
「了解っす!先輩、さっそく行きましょう!」
「何でお前そんなテンション高いんだよ」
「それはその、えと、気のせいじゃないっすかね?」
じと、としたクロノの視線に射抜かれ、誤魔化そうと下手な口笛をふくギノア。
彼の頭の中にデートという単語が浮かんでいたのは言うまでもない。
昨日までと変わらない、いつも通りの二人のやりとりに、レイルは人知れず微笑んだ。
「ともかくっ!副団長、行ってくるっす!」
「うん。気をつけてね」
「ちょ、ひっぱんなっつの……聞いてんのかよギノアッ!」
「レッツゴ~っすよ、先輩!」




