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魔法師団の団員の多くは、王宮の敷地を出てすぐの寮に住んでいる。
ギノアやクロノ、アイジスもそうだが、レイルなどの王都に家のある者は毎日家から王宮まで通っている。
建物自体は古いものの、中は綺麗にリフォームされているためそこまで酷くはない。
クロノの自室は二階建ての寮の、二階部分の一番端だ。
ちなみにギノアは一階、アイジスはクロノとは反対の端の部屋に住んでいる。隣はルーエンだとか。
何も言わなかったクロノについて、クロノの自室に上がりこんだギノアは、めちゃくちゃソワソワしていた。
「せ、先輩ってけっこう部屋、綺麗にしてるんすね!なんというか、整理されてるというかっ」
「……あぁ」
「お、俺の部屋なんて物だらけで!あ、こんど良かったら片づけるの手伝ってくれないっすか?なーんて……」
「……」
二人の間には気まずい空気が流れ、ギノアも口を開けなくなってしまう。
何もない壁を見つめるクロノの空虚な瞳は、ここではないどこかへ想いをはせているようだった。
その姿を見たギノアの頭の中はすっと凪ぎ、言葉は頭で考える前に口をついて出た。
「先輩は、誰の事を、想ってるんですか…」
静かな部屋に確かに響いたその言葉は、空虚な瞳にまっすぐな青年の姿を映させた。
「わたし、は…」
クロノが言葉を紡ごうとしたとき、慌ててギノアはクロノの口を両手で塞いだ。
「や、やっぱなしで!!!」
「んぐっ!?」
両手でクロノの口を押さえながら、ギノアは視線を泳がせる。
「あわわ、俺ってばなんてことっ、あうぅ、望み薄じゃんかぁ……もしかしたらもしかする?でもなぁ……う~っ」
一人でぼそぼそ呟き、己の世界に入り込んでしまったアホな後輩に、クロノは思わず吹き出した。
「ぶふっ……ほま、はほはは」
「えっ!?あ、すんませんっ、口塞いじゃって!」
ぱっとギノアが手をはなすと、クロノは思う存分に恥ずかしさやらで真っ赤なギノアを笑った。
「む~…そこまで笑うことないじゃないっすか」
「だって、おまっ、アホすぎっ!」
「もうわらわないでく~だ~さ~いっ!先輩のばかぁ!」
「わるいわるい」
いつの間にかもとのクロノに戻っている事に気がついたギノアは、笑い続けるクロノを軽く叩きながらも、安堵と嬉しさを抑えられずに笑顔になる。
先ほどまでのクロノも、クロノの一面。
理解しようとしたくても、やはりいつもの少しばかり意地悪なクロノが、ギノアにとっての“クロノ”なのだ。
いつか、全てを話してもらえる日が来たら、自分も自分の気持ちの全てを話そう。
そうして二人でずっと、笑いあえる日々をおくりたい。
そうギノアは心の内で思い、そんな未来があることを願った。




