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花のない薔薇  作者: 愁
第一章 裏切り者の魔法使い
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11

 魔法師団の団員の多くは、王宮の敷地を出てすぐの寮に住んでいる。

ギノアやクロノ、アイジスもそうだが、レイルなどの王都に家のある者は毎日家から王宮まで通っている。


建物自体は古いものの、中は綺麗にリフォームされているためそこまで酷くはない。

クロノの自室は二階建ての寮の、二階部分の一番端だ。

ちなみにギノアは一階、アイジスはクロノとは反対の端の部屋に住んでいる。隣はルーエンだとか。



 何も言わなかったクロノについて、クロノの自室に上がりこんだギノアは、めちゃくちゃソワソワしていた。


「せ、先輩ってけっこう部屋、綺麗にしてるんすね!なんというか、整理されてるというかっ」


「……あぁ」


「お、俺の部屋なんて物だらけで!あ、こんど良かったら片づけるの手伝ってくれないっすか?なーんて……」


「……」


二人の間には気まずい空気が流れ、ギノアも口を開けなくなってしまう。


何もない壁を見つめるクロノの空虚な瞳は、ここではないどこかへ想いをはせているようだった。

その姿を見たギノアの頭の中はすっと凪ぎ、言葉は頭で考える前に口をついて出た。


「先輩は、誰の事を、想ってるんですか…」


静かな部屋に確かに響いたその言葉は、空虚な瞳にまっすぐな青年の姿を映させた。


「わたし、は…」


クロノが言葉を紡ごうとしたとき、慌ててギノアはクロノの口を両手で塞いだ。


「や、やっぱなしで!!!」

「んぐっ!?」


両手でクロノの口を押さえながら、ギノアは視線を泳がせる。


「あわわ、俺ってばなんてことっ、あうぅ、望み薄じゃんかぁ……もしかしたらもしかする?でもなぁ……う~っ」


一人でぼそぼそ呟き、己の世界に入り込んでしまったアホな後輩に、クロノは思わず吹き出した。


「ぶふっ……ほま、はほはは」

「えっ!?あ、すんませんっ、口塞いじゃって!」


ぱっとギノアが手をはなすと、クロノは思う存分に恥ずかしさやらで真っ赤なギノアを笑った。


「む~…そこまで笑うことないじゃないっすか」


「だって、おまっ、アホすぎっ!」


「もうわらわないでく~だ~さ~いっ!先輩のばかぁ!」


「わるいわるい」


いつの間にかもとのクロノに戻っている事に気がついたギノアは、笑い続けるクロノを軽く叩きながらも、安堵と嬉しさを抑えられずに笑顔になる。


先ほどまでのクロノも、クロノの一面。

理解しようとしたくても、やはりいつもの少しばかり意地悪なクロノが、ギノアにとっての“クロノ”なのだ。


いつか、全てを話してもらえる日が来たら、自分も自分の気持ちの全てを話そう。

そうして二人でずっと、笑いあえる日々をおくりたい。


そうギノアは心の内で思い、そんな未来があることを願った。

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