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少し考えてみろ、とヴァニエストに言われたクロノは、魔法師団の詰所からしばらく歩いた場所にある、今はあまり人が寄りつかないという庭園を教えられた。
ヴァニエストは土地の問題で研究所を造るなら最有力の場所だと、どこかワクワクとした表情で語っていたが、そもそも造れるのかまだ分からないことを理解しているのか怪しい。
他の庭園より比較的草花より樹木の多いそこはまるで小さな森のようだった。
人が来ないといっても王宮内であるためか、手入れはきちんとされている。
「あ……」
庭園内をしばらく行くと美しい薔薇垣が目に入り、クロノは自然と足を止めた。
濃い赤に色づく薔薇を見ていると、美しい紅の瞳を思い出す。
けれど同時に、ヴァニエストの言葉が脳裏に反芻してクロノの胸は締め付けられた。
理解ができないということが、こんなにも心を掻き乱すことは初めてだった。
あの時、手を差し伸べてくれたヴィジェーンに報いたい。その考えを知り、
理解したい。
そう確かに思うのに、どうしても理解できない。受け入れられない。
クロノ自身、何故ヴィジェーン相手にここまで思うのかわからなかった。
他の者なら理解できないことは理解できないと放置してしまうだろうに、ヴィジェーンのことは解りたいと切望している。
自分自身のこと、ヴィジェーンのこと、処理しきれない感情を前に、クロノは立ち竦むことしかできない。
動けない自分を導いてほしいとクロノは願った。
それはきっと、ただ一人にしかできないこと。
「――クロノ」
ぱっと顔を向けた先に居たのは、あの時と同じように、力強い瞳でクロノを見ている王だった。
「ヴィジェーン様っ」
今の今まで思考を支配していた人物の姿にクロノは驚きと戸惑いが隠せなかった。
どきりと跳ねた心臓の音がやけに耳につき、それきり何も言えずに口をぎゅっと引き結んだ。
ヴィジェーンはそんなクロノに僅かに眉間に皺を寄せたが追及はしなかった。
「お前に用があって探していた」
「用、ですか?」
「……これを」
そう言ってヴィジェーンは、懐から取り出した物をクロノへ差し出す。
何の疑問も持たずにそれを受け取ったクロノは手の中のそれに目を見開いた。
「これ、は……そんな」
所々に汚れがつきボロボロな状態であるが、それをクロノが見間違うことは無い。
何故ならそれは、精一杯に気持ちを、願いを込めて自ら作り大切な人へ渡したものであるから。
……エイトの手元にあるはずの、世界に一つだけのお守りだから。
「あの者から、それをお前に渡すよう乞われた。そしてお前のことも」
「どういう、こと、ですか」
俯いたまま問うたクロノに、ヴィジェーンは眉一つ動かさないで答えた。
「あの日、俺にお前の父親はある提案をした」




