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「……っと、悪い。ついな。まぁ、アレだ。俺は古代魔法がどんなものか使ってみたかったし、結果こんなんになっちまったが後悔はしていない。研究を続けている限り、使うのは早いか遅いかの違いだったろうしな」
でも、とヴァニエストは続ける。
未だ光を宿した紅い瞳は、しっかりとクロノを捉えて揺らがない。
「お前はいつか後悔するかもしれない。お前の使った魔法は、恐らく古代魔法をベースにしたものだろう。なら、もう自覚してるだろうが、お前は代償を払うことになる」
あまりにも真剣な表情で言われ、ついクロノの瞳が揺らぐ。
そんな自分にクロノ自身が驚きを隠せなかった。
闇属性の魔法に手を出した時点で、命を削ることなど覚悟していたはずなのに。
死を望む心すら抱いているはずなのに。
具体的な話になった途端、竦む自身がいることが理解できなかった。
「誰だって、傷つくのは怖い。死ぬのも怖い。けど、それ以上に思える何かの為なら後悔はしないんだよ。俺にとっての魔法の研究のように、お前はお前に全てを差し出せと命じる主のことを思えるか?」
「……」
「俺が一番、お前に聞きたかったのはそれだ。お前にとって、ヴィジェーンは忠義を尽くせる相手なのか?ただ流されるがままにあいつに仕えても、それは誰にとっても良い結果にはならないぞ」
クロノは瞼を閉じて自分に問うた。
自分にとってヴィジェーンという王の存在がどんなものであるのか、自分はヴィジェーンのために尽くせるのかを、もう一度冷静に。
――そして辿りついた答えを、自身の本当の心の在処を、ぽつりぽつりと口にした。
「はじめは、ただこの人なら僕に道を与えてくれるって思ったから手を取りました。今もそれは変わらないけど、でも、そんなあの人のためになりたいって気持ちも確かにあるんです」
それが例え、身勝手な思いからくるのだとしても。
忠義なんて純粋なものとは違う、もっとずっと、打算的なものだとしても。
今感じて、抱いている気持ちは本物だ。
「あの人の命令で命を使うことは、後悔するようなことじゃない、と思うんです。ヴィジェーン様のためなら、きっと僕は尽くしていける」
今度は揺らがず、真っ直ぐにヴィジェーンと同じ紅い瞳を見つめて言ったクロノに、ヴァニエストは目尻を下げた。
「不思議な奴だな、お前は」
「不思議、ですか?」
「あぁ。よくまぁ会ってそこそこの人間相手にそこまで言えるよな。俺はてっきり無理って言うと思ってた……そん時はここの研究員にでも引っ張り込むつもりだったんだがな。そろそろ助手も欲しかったし」
「ヴァニエスト様は優しい人ですね」
「どうだかな。お前の気持ちを聞いたうえで、爆弾を落とすくらいはするぞ」
「?」
首を傾げたクロノに、ヴァニエストは綻ばせていた表情を引き締めて口を開いた。
「お前を信用できる奴だと思ったから話すが……さっきの、王族の血を引く奴は何人いるのかって質問だがな。生きてるのはもう、俺とあいつを含めて5人だけだ。なんでかわかるか?」
「……いえ」
「ヴィジェーンが全員殺したからだ。前王であるあいつの父親も、第一王子だった兄も、親戚連中も全員な」
それは、まさしく爆弾のようにクロノの頭に響いて言葉を失わせた。
クロノにとってエイトは、親は、守りたいと思う存在であって、その命を奪おうなど考えたこともない。
ヴィジェーンの行いが、その思考が、クロノには到底理解できなかった。
「お前は、この話を聞いてもさっきの言葉を貫けるのか?」




