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クロノの様子を見てヴァニエストは小さくため息をついた。
「……説明できないか」
ボソッとそう言うと、ヴァニエストは手近な場所にあった白紙の紙とインクの瓶に刺したままだったペンを手に取った。
「ヴィジェーンがお前に魔法について聞いた時、だいぶ抽象的な返答をしたらしいな。それであいつ、お前自身も自分の魔法を理解してないところがあるんだろうって言ってたんだよ。その理解させるとこも含めてお前を教育するのが俺の役目ってことだ」
「すみません」
「あー、別に構わねぇよ。知らない魔法を知れるのはそれだけで俺にとっては価値があるからな。お前が分からないなら、分かるまで探求すればいい話だ。取り合えずどんな感じで教わったとか、何を読んだとか覚えてる限り全部教えてくれ」
「えっと……」
クロノが記憶を頼りに今まで読んだ魔法に関する本のタイトルを言っていくと、
ヴァニエストはそれを用紙に書いてリストアップしていった。
初めてエイトに渡された基礎の本から、専門的なものまで。
一冊ずつ思い出すたびに浮かぶのは、本を読むクロノの側にいつもいた、今はもういない人の優しい表情。
平穏だった日々を思うと、王宮内のヴァニエストの部屋でこうしていることが幻のようで。
けれどもう幻なのは、くだらない言い合いをしながら、それでも二人でいられた日々の方なのだ。
震えそうになる声を何とかこらえて、クロノは最後に自ら手にした本のことを口にした。
「“古の闇属性魔法”」
それを口にした瞬間、ヴァニエストのペンの動きが止まった。
クロノが不思議に思っていると、ヴァニエストはゆっくりと左手で光を失った瞳を覆う。
「……なるほどなぁ」
そしてそう、吐き出すように呟いた。
何も尋ねられないまま、ただ視線のみをヴァニエストの左目へ向けていたクロノに気づくと、ヴァニエストは暫し考えるように瞳を閉じてから口を開いた。
「俺のこの目は、魔法の代償で使い物にならなくなったんだ。他人の魔力を可視化するっていう、文献にのみ残っていた古代魔法でな。俺はそれを使って以来、常に他人が魔法を使えるかどうか判るようになったが、代わりに左目は完全に見えなくなったし残った方も段々ダメになってきてる」
「……」
ヴァニエストの告白に、クロノは言葉が出てこなかった。
闇属性魔法に命を削るものがあることは知っていても、ヴァニエストのような形で代償の発生する魔法があるとは知らなかったのだ。
それはクロノにとって驚愕であり、そして自分の命もまた、確実に無くなっているのだという実感を与えるものでもあった。
「今使われている魔法では、使い手が魔力以外を失うのはもっぱら闇属性だが古代魔法は違う。属性に関わらず全てが何かしらの身体的代償のもと行使されていたし、故に強大なものだったんだ。時代の流れで危険な古代魔法は文献の中の産物になったが、古代魔法が主流の頃は今よりずっと魔法で多くの事が出来たんだ」
ぎゅっとペンを握り締めヴァニエストはクロノに語る。
が、どこからスイッチが入ったのか、若干前のめりになり口調には熱が籠り始めていた。
「昔はどんな奇跡が可能だったのか、俺はそれが知りたくて魔法の研究を始めたが中々進まない。そしてそんな時出会ったボロボロの文献に載っていたのが魔力の可視化の魔法でな!俺はもう知的興味が抑えきれなかったんだ!代償が何かのページが抜け落ちていたんだが我慢できずに……!」
ついに立ち上がってそう語るヴァニエストの姿に、クロノは色々と考えることを放棄した。
どうやらヴァニエストは重度の魔法バカだったらしい。




