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「普通、行儀見習いってのはご令嬢方がするもんなんだよ。格上の家で行儀やら言葉遣いを学ぶんだが、箔付けの意味合いも持つんだ……嫁ぐためにな」
「とつ!?」
口をぱくぱくとさせて驚くクロノに追い打ちをかけるようにヴァニエストは口を開いた。
「ちなみにどうでもいいことだが、王族の血を引く奴はもう殆どいないから、俺のとこに来るってのは相当だぞ。ヴィジェーンのとこにも嫁げるかもな!」
「冗談ですよね!?」
「冗談だ。そもそも行儀見習いの件は名目に過ぎないってことを忘れてないか?」
「あっ!」
完全に遊ばれたことを自覚したクロノは、頬を赤く染めてヴァニエストを睨みつけた。
そんなクロノをスルーして、ヴァニエストは再び歩き始める。
「ま、他の連中には、お貴族様に目をつけられて召し上げられようとしてる奴に見えてるわけだ。いいんじゃないか?少なくともちょかいかけられたりはしないだろうよ」
「いいんでしょうか……」
いくらか疲れた様子でヴァニエストの後を追うクロノは、何気なく疑問に思ったことをヴァニエストに聞いた。
「さっき、王族の血を引く奴は殆どいないって言ってましたけど、どのくらいなんですか?」
「んー、そうだなぁ。けっこう少ない、かもな」
「はぁ……」
飄々とした態度とは裏腹な、はぐらかすような物言いで答えた切り、ヴァニエストは何も話さなかった。
精神的な距離を突き放すように無言の線引きがされ、少しだけ重くなった空気にクロノは足取りを重くした。
・・・・・・
案内されたヴァニエストの使っているという部屋は、何だかよくわからない物が散乱し、研究室と言っていいのかも怪しい混沌とした状態だった。
足の踏み場こそ辛うじてあるものの、中央に置かれているソファの上まで物が侵食しており、休める場所はなさそうだ。
「……」
思わずクロノは、驚きやら呆れやらで絶句し立ち尽くした。
そんなクロノの様子に少しは申し訳なく感じたのか、ヴァニエストは「ちょっと
待ってろ」と言うなり、唸りながらソファの上の物を選別しては床や、物で溢れかえっている机にどさどさと移動させていく。
そうして、何とか一人分のスペースを開けるとクロノに勧め、自分は本を積み上げていた椅子を引っ張り出してきてそこに腰かけた。
舞い上がった埃が窓から差し込む光に照らされて輝きながら浮遊する。
その様をぼんやりと眺めていたクロノに、ヴァニエストは少しだけトーンを下げた声音で話しかけた。
「さて、二人になったことだし、いくつかお前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?」
クロノがヴァニエストへ視線を移すと、ヴァニエストは懐から一枚の用紙を取り出していた。
「お前を紹介される前、ヴィジェーンにお前が使ったという魔法に関しての報告書を貰った。まず聞きたいのは、お前が使った魔法について。俺は長いこと魔法を研究してきたが、お前が使った魔法に類似するものを知らない。これはどんなものなんだ?」
「……」
その質問にクロノは下を向いて黙ることしかできない。
使ったというよりは、暴走した結果引き起こしたあの魔法について、当のクロノ自身も明確な答えを持ってはいないが故に。




