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いつものことながら口元は微笑んでいるのに目は笑っていない状態のレイルに長々と説教を受け、ギノアがうつらうつらと舟をこぎ始めた頃。
―…コンコン
「誰だろう。すまないけどまっていて」
「いえいえ、どーぞお気になさらずにー」
「はぅっ!ね、寝てないですよ!?」
「誰も聞いてねぇ」
レイルが扉を開けると、びしっと制服を着たアイジスが立っていた。
「レイル、陛下がお帰りだ。警護を……」
「うん。ちょっとタイミングが悪かったかな。何で僕らは考える事が食い違ってしまうんだろうね」
二人の視線はソファに座ったまま真顔で見返してきているクロノに注がれていた。
何の表情も宿さない、というよりは、無理矢理に押し殺したというほうが正しいその顔はどこか痛々しい。
淀んだ瞳は先ほどまで確かにあった光が消えている。
「陛下って、王様が来てるんすか?こんなトコに?」
「そうだよ、ギノア。悪いね、クロノ。そんなわけだから少し君達を執務室から遠ざけておきたかったんだけど、失敗してしまったよ。大人しくここにいてくれるかな?」
状況を理解できずに首をかしげているギノアは放っておくとして。
クロノはゆっくりと立ち上がると、虚ろに笑った。
「構いませんよ。《私》には関係ありませんから。あぁ、そうだ。まだ読みかけの本があったんです。やはり部屋に戻ってもいいですか?」
「せん、ぱい?」
戸惑いに満ちた声は擦れて、問いかける言葉は届く前に消える。
ギノアの未だ見たことのない、知る由もない“クロノ”が確かにそこにいた。
レイルとアイジスは互いを見てから頷く。
それを見たクロノはふっとまた無表情になると、二人の間をすり抜けるようにして部屋を出て行った。
「ギノア、しばらくクロノについていてあげて。今は少し、不安定かも知れないけれど」
「わ、わかりました。失礼しますっ」
戸惑いながらも走ってクロノを追うギノア。
二人の背中が見えなくなった頃に、やっとレイルとアイジスは王の待つ執務室へと足を向けた。
「なんで、空回ってしまうんだろうね」
「なぜだろうな。俺たちも、あいつも」
切なげに、苦しげに、不器用に、必死に口元に笑みを浮かべる。
因果か運命か、あるいは呪いか。
何ともいえぬ、ただ抗えないものに絡めとられ、その身が朽ちるそのときまで。
彼らは身体の中に溢れる感情を口には出さないだろう。
それが革命の代償であり、現在のための犠牲であり、未熟な者の全てを奪った罰なのだから。




