6
他愛もない話をしたり、ヴィジェーンに対するヴァニエストの愚痴などを聞き流しながらしばらく進み、二人は魔法師団の詰所へ到着した。
「とりあえず俺の使ってる部屋に案内する。まぁ、ほぼ研究室みたいになってるけどな。今度功績でも上げたら、ヴィジェーンに強請って研究所を作ってもらうつもりなんだ」
言いながら詰所の廊下のど真ん中をずかずかと進む姿は、さすがは団長といった風貌だ。
途中で何人かの団員とすれ違う度に、ヴァニエストの後ろをついて行くクロノは怪訝な表情を向けられた。
明らかに部外者の子供を団長が連れていれば当然だろう。
殆どが気に掛けつつも、ヴァニエスト相手には何も言えない中、一人だけ堂々と声をかけてくる者がいた。
「団長、その子供は誰ですか?まさか、新しい団員というワケではありませんよね?」
「違う違う。コイツはクロノ。ヴィジェーンから俺のとこに行儀見習いで置くように言われてな。しばらくはここにも入り浸り状態だろうから、他の奴らにも言っといてくれ」
「そうですか。ここでは珍しい容姿だと思ったのですが陛下直々で……」
団員はクロノの黒髪と黒い瞳をまじまじと見ながらそう言う。
黒や深い青といった暗い色味は隣国特有のもの。
隣国を象徴するような容姿をした者が王宮内にいるのは珍しいだろう。
団員の不躾な視線にクロノが思わず身じろぐと、ヴァニエストは苦笑しながらそんなクロノの頭に手を置いた。
「身元自体はしっかり把握されてるし、そう見つめてやるな。こいつも来たばっかりで緊張してるんだ」
「失礼しました。しかし、行儀見習いですか」
「そ。ってまさか俺のとこじゃ問題ありそうとか思ってるのか?」
「いえ、そうではなく。いや、それも多少はありますが」
「あるのかよ!」
軽快に進んでいく会話に、ヴァニエストと団員の仲の良さがうかがえる。
二人の会話をただぼんやりと聞いていたクロノは、次の瞬間、団員の言葉に目を見開いた。
「えっと……男の子、ですよね?」
確かにまだ幼さ故に中性的な面はあるかもしれないが、それでも格好からしても男であることなど確認するまでもないことだ。
そんな疑問をぶつけられるとは思ってもいなかったクロノが目を見開いたまま
固まっていると、少しだけ面白そうに目を細めたヴァニエストがクロノの頭をぽんぽんと叩いた。
「男だなぁ、完全に」
「もしかして、どこかの有力貴族のおぼえでも良かったんですか?」
「さぁな~。俺はそこら辺興味ないから知らんが、男に行儀見習いさせるんだし、そんなとこなんじゃないか?」
それを聞いた団員は、先ほどとは打って変わって憐れむような視線をクロノに向けて「大変なんですね」とだけ言い残して去っていく。
団員が去った方向を呆然と眺めるクロノに耐え切れなくなったのか、ヴァニエストはクロノの背中をバシバシ叩きながら爆笑した。
「いやぁ、薄々思ってたけど、やっぱりわかってなかったかぁ!」
「どういう意味ですか」
不満そうに聞いたクロノに、ヴァニエストは完全に面白がりながら答えた。




