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話は終わった、とヴィジェーンに執務室を追い出された二人は、ひとまず魔法師団の詰め所へ向かった。
「魔法師団は国内で力が認められた魔法使いの集団みたいなのだ。単純に魔法を認められた奴も、研究者として認められてここに集められた奴もいる。そうやって人材を引っ張てきたり、戦時に招集するために魔法使いが何処に住んでて何をしてるか定期的に国中を調査・管理するのがお仕事だ」
「なんか大変そうですね……」
「らしいな。俺は研究ばっかりだからその辺は部下に丸投げしてて知らねぇけど」
何てことない風に言ったヴァニエストに、クロノはありえないものを見るような視線を向けた。
「おい、職務怠慢とか言いそうな目をすんじゃねぇよ」
「自覚あるんですか」
「お前どんだけ俺の印象悪いんだよ」
はぁ、とため息をついてからヴァニエストはクロノの頭をぺしぺしと軽く叩いた。
その仕草が少しだけ、もう記憶の中の人物となった人と重なって息を飲む。
ぐっと押し黙ったクロノをちらと見て手をどけたヴァニエストは、真っ直ぐに前を向いて話を続けた。
「俺はもともと、お飾りの団長なんだよ。俺は魔法の研究がしたかった。ヴィジェーンは地位があって信用できる団長が欲しかった。利害が一致したから俺は団長の座に就いたが、人をまとめるなんて無理だし、面倒だから御免だ」
「地位……信用……」
どれも自分に程遠い世界の事と思いながら、クロノは半歩分前で揺れる銀髪を見上げる。
「ヴァニエスト、様、は」
「あぁ、呼び方は好きでいいぞ。様付けでも、呼び捨てでも。なんならご主人様とかでもいいんだぜ?」
「ヴァニエスト様!は!」
つれないな、と子供のように唇を尖らせたヴァニエストにむっとしながら、クロノは抱えていた疑問をぶつけた。
「ヴァニエスト様は、その、ヴィジェーン様のお兄さんとか何ですか?」
聞くなり、にやりと細められた紅い瞳にクロノは視線を彷徨わせた。
「参考までに、何で俺がアイツの兄だと思ったのか教えてもらえるか?いつも初対面の奴は俺の方がアイツより年下だと思うらしいからな」
「えっと、ヴィジェーン様よりその、身長が……」
言いながら、とても失礼なことを口にしている気がしてクロノの声は段々と小さくなる。
一方で、それを聞いたヴァニエストは盛大に吹き出して爆笑した。
「身長!よりにもよって、ぶはははっ!アイツ俺よりチビだもんな!
あ~、腹痛いっ!」
「ヴァニエスト様!」
人目もはばからずに爆笑するヴァニエストに、思わず恥ずかしくなってクロノの頬に熱が集まった。
一通り笑ったヴァニエストは「わりぃ、わりぃ」と言いながらうっすらと涙の浮かんだ瞳をこする。
少しだけ乱れた銀髪を気にする風もなくヴァニエストは笑顔を浮かべて口を開く。
「実際、俺のが年上だがな、兄弟じゃねぇんだよ。俺は王家の血を引いてる一族の末端、アイツの遠い親戚ってやつだ」
「だから髪と瞳の色がそっくりなんですね」
「そうそう。まぁ、俺が割とハッキリ王族の見た目に産まれただけで、両親は全然だったけどな」
王族の見た目、と聞いて目に焼き付いた“あの時”のヴィジェーンの姿がクロノの瞼の裏に浮かぶ。
月光に照らされ、輝く銀髪。
死を体現したような炎を「美しい」と言って細められた紅い瞳。
場違いに見とれるほど美しいその姿は、王族というより、もっと神聖な何かを連想させる。
「――っ」
ヴィジェーンの姿を思い出したクロノは、胸の奥が少しだけ締め付けられるような感覚に襲われた。
エイトのことを思った時とは違うその胸の痛みは、すぐに何もなかったかのように消えてゆく。
「……クロノ?」
いつの間にかクロノは立ち止まり黙り込んでいた。
それを不思議に思ったヴァニエストの声で我に返ったクロノは、すぐに何でもないと首を振って再び歩き出す。
先ほどの胸の痛みの理由に疑問を抱えながら……




