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ヴィジェーンは徐に視線を外し、険しい表情のまま壁に掛けられた大きな世界地図を眺めた。
「隣国の動きからして、次の戦争が起こるまで時間はあまりないだろう。
現状はもって二年、といったところか」
その言葉に執務室の中は静まり返る。
幾らか空気の重くなった部屋の中にヴィジェーンの声だけが凛と響く。
「王宮内にも間諜はいるだろう。ならば今の騎士団の規模や、魔法師団の戦力すら隣国に筒抜けと考えるのが賢明だ……今必要なのは、隣国どころか王宮内でも存在の知られないような、奥の手と成る存在だ」
「それにこのガキが成りえると?言っちゃ悪いが、お前を殺そうとした奴の息子だぞ?」
顔を引きつらせながら彼がそう言うと、ヴィジェーンはそれに答えるように、
ふっと自信ありげな笑みを湛えた。
「だからこそコイツほど適任な者はいない。非力な子供で、暗殺者の息子、そんな奴がこの国の命運を握るなど誰が思う?欺くにはもってこいだ。
力はこの先、お前のもとで成長させればいい。幸いコイツは元々、村一つを滅ぼす程度の魔法は扱える。戦場一帯にあの魔法を発動させられるようになれば文句はない」
「すごい面倒を押し付けやがって!って、そうじゃなくてだな!コイツ自身が裏切る可能性はないのかって言ってんだよ!」
びしっとクロノを指さして彼が喚くが、ヴィジェーンはそれを嘲笑い、紅い瞳をクロノに向ける。
「ないな。生きる術も、生きる場所も、死に場所すらも、コイツに与えられるのは俺だけだ。それをコイツも理解しているからこそ、俺の手を取ったのだ。仮に俺を裏切ったとして、コイツが存在を許される場所など何処にもない」
「そういう問題じゃないと思うんだがな……まぁ、お前がそこまで断言するなら
もう言わねぇよ」
深い溜息と共に、彼は肩をすくめて見せる。
そして諦めたようにへらりとした笑みを浮かべてクロノに右手を差し出した。
「取り敢えずは俺がお前の面倒を見なきゃなんないらしい。
改めて、俺はヴァニエスト。一応魔法師団ってとこで団長をやりながら、魔法を研究している。お前のこと色々言ったが水に流してくれ」
「クロノです。よろしくお願いします」
簡単にそれだけ言い、クロノは一回りほど大きなヴァニエストの手を握り返した。




