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過去編Ⅱ―12年前~
村を出て、馬から馬車に乗り換え進むこと数日。
クロノを加えたヴィジェーン一行はようやく王都へ帰還した。
馬に乗れないという理由から最初は騎士の馬に、途中の町からヴィジェーンと同じ馬車に乗ることとなったクロノは、目の前の王の存在に初めての王都に関心を向ける余裕もない。
「……」
「……」
馬車内で何の会話も生まれないまま王都を進みしばらくすると、一行は大きな門をくぐり広場のようになっている場所で止まった。
「陛下、到着致しました」
外からそう声がかけられ扉が開けられると、ヴィジェーンは一瞬だけクロノに視線をやってすぐに馬車を降りて行く。
それに続くように慌てて馬車を降りたクロノは、思わず息をのんだ。
「っ!」
豪奢な細工が美しい、見たこともないほど巨大な白亜の宮殿。
そしてヴィジェーンに礼をとる数多の騎士とメイドらしき人々。
全てが小さな村の中で育ったクロノには衝撃的だった。
「おかえりなさいませ、陛下」
一歩前に出たメイド服姿の女性がそう言うと、ヴィジェーンは一言「あぁ」とだけ答えて辺りを見渡した。
「どいつか、執務室にヴァニエストを呼んでおけ。急用だとな」
そこまで言うと、ヴィジェーンは後ろで立ち尽くしてたクロノを見やった。
「それと新しく部屋を用意しておけ。場所は空いている部屋の中で一番俺の私室に近いものを。アデル、こいつをここにいても恥にならん程度の身なりにして執務室に連れて来るように。他の者は通常の任に戻れ」
「仰せのままに」
ヴィジェーンの指示にアデルと呼ばれたメイド服の女性がそう言うと、他のメイドや騎士達が一斉に持ち場へと向かっていく。
当のヴィジェーンは幾人かの近衛騎士を引き連れあっという間に王宮内へ消えてしまった。
右も左もわからない状態で放置されたクロノが辺りを見回していると、先ほどアデルと呼ばれていた女性が声をかけてきた。
「はじめまして、アデルと言います。ここではメイド長を任されております。
お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
柔和に微笑んだアデルは、メイド長という立場を表すように、制服をきちんと着こなし背筋がすっと伸びた凛々しい雰囲気を持っている女性だ。
村でのこともあり、女性に若干の苦手意識を持ち始めていたクロノは、そんなアデルに気後れしながら口を開いた。
「クロノです。えっと、よろしくお願いします」
そう言ってたどたどしく頭を下げると、アデルは満足そうに一つ頷いた。
「よろしくお願いしますね。さぁ、まずは陛下のご指示通りに貴方のその恰好をどうにかしなくては。ついて来てください」
「は、はいっ」
アデルに案内されて使用人用の出入り口から王宮内へ足を踏み入れたクロノは、壁や天井に彫り込まれた一面の細工に目を奪われた。
「ふふ、すごいですよね?ここは王国内の数ある宮殿の中でも特に豪華な造りなんですよ。初めてここに来た人は皆、貴方のように上を見上げて驚かれるんです」
「本当に……桁外れだ」
「この後貴方が行かなければいけない、陛下の執務室や私室のある区画はもっとすごいですよ。陛下の前ではそんな風に呆けないように気を付けられてくださいね」
「……気を付けます」




