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「――で、お前は何をしてるんだ?」
昔語りをしていたクロノの視線の先で、ギノアは何かを指折り数えている。
「先輩っ、なんかすっごいことに気づいちゃったんす!」
やがて数えるのをやめたギノアは、興奮気味に身を乗り出してそう言った。
「すっごいこと?」
何のことかわからずクロノが小首をかしげると、ギノアは何だか妙に嬉しそうに「そうなんす!」と首を縦にぶんぶん振った。
「約13年前に先輩は6歳だったんすよね!?てことは今19歳なんすよね!?」
「それがどうした?」
「俺は今22なんす!」
嬉しそうにそう報告したギノアに、クロノは真顔で答えた。
「で?」
それが何だ、というクロノの態度に、ギノアは若干不服そうに頬を膨らませる。
「だからっすね!俺のが年上なわけですよ!?つまり俺も他の方々と同じように、
先輩を呼び捨てで呼んでもいいんじゃないっすかね!?」
「却下」
「なんでっすか!?」
涙目で詰め寄ったギノアに、クロノは呆れたように溜息をついた。
「あのなぁ、お前の言う“他の方々”って団長とかのことだろ?年齢云々の前に立場が違うだろうが」
「うぐっ」
「俺はお前の部下じゃないし友達ってわけでもない。仮にも俺はお前の教育係でもあるんだぞ」
「あぅっ」
「というかお前の言う方式だと、俺はお前を“センパイ”って呼ばなきゃなんないだろ。嫌だぞ、何となく」
「……!」
クロノの言葉にダメージを受けまくっていたギノアは、ふいに表情を煌めかせた。
「も、もう一回!聞こえなかったんでもう一回今の言ってもらってもいいっすか!?」
「は?だから、俺はお前のこと“センパイ”なんて呼びたくないって……」
「“センパイ”!」
「お、おう?」
“センパイ”というワードは思っていたよりも良いものだったらしい。
クロノからそう呼ばれることを想像すれば尚更に。
一人で勝手に盛り上がって目を輝かせるギノアに、クロノは椅子を引いて物理的に距離を取った。
「先輩後輩ってのも中々いいっすね!」
「お前さっきから言ってることおかしいの自覚してる?」
「あ、でも今のままだと俺が先輩のこと先輩って呼ぶだけで先輩は俺のこと呼び捨てのままなんすよね……どうやったら俺が先輩の先輩になれるんすか?」
「お前一回落ち着け。そして話を聞け」
このままだと“先輩”がゲシュタルト崩壊しそうだ。
徐にクロノは大真面目に馬鹿っぽいことを考えていたギノアの頭に手を伸ばす。
「……っ!?」
不意打ちで撫でられた頭に、ギノアは思わず顔を赤らめて静止した。
その様子を見て、クロノはふっと微笑む。
「このぐらいで固まってるうちは、いつまで経ってもお前は俺の可愛い後輩だな」
「か、可愛い……」
可愛がられていること喜ぶべきか、いつまでも後輩という立場を抜けられないことを嘆くべきか、そう言って笑う先輩の方が可愛いと伝えるべきか。
ギノアは悶々としたままクロノが満足するまで頭を撫でられ続けた。




