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研究所から魔法師団詰め所に戻った二人は、報告のためにアイジスの執務室に向かった。
「お前、だいぶ好かれてたな」
「嬉しくないっすよ。俺は、先輩に……」
「え?俺は、なんだって?」
「なんでもないっす!」
「……?」
突然小走りで廊下を走り出したギノアの後を、疑問符を浮かべながらクロノは追った。
執務室の前に着くと、ギノアはクロノとは違いきちんとノックをしようとする。
が、する前に扉が開き、中から銀髪の男性が出てきた。
「あ、副団長。おつかれさまっす!」
「あぁ、ギノア。おつかれさま」
男性はクロノを視界にうつすと僅かに目を見開き、執務室をノックしようと伸ばされていたギノアの腕を掴んだ。
「ちょっと二人とも来てくれるかな?」
それだけ言って廊下を歩き出した男性の名はレイル。
魔法師団の副団長であり、王国随一の名家の一人息子でもある。
線が細く女性的な見た目をしており、アシンメトリーに切られた銀髪にアクアブルーの飾りが似合う麗人だが、魔法の実力は確かで、そんじょそこらの者には絶対に負けないだろう。
大人しく後を行くギノアを見て、渋々歩き出すクロノ。
「先輩はやくっ!」
そう言って気だるげなクロノの手をとったギノアは、クロノをひぱって歩き出す。
前を向いたま行くギノアは、クロノをひっぱりつつも気をつかってか、歩調はそれほど速くない。
「なんか手、あつくないか?」
「気のせいっすよ!!!」
ふと思ったことを言ったクロノに、慌てた様子のギノアは前を向いたまま少し頬を染めた。
ぎゅっと握られた手は、さらに少しあたたかくなった。
・・・・・・
「どうぞ、入って」
「おじゃましますっす!」
「……」
二人が連れて来られたのは、レイルが使っている仕事部屋だった。
全体的に物が少なく、よく整頓されている。
唯一、レイルの趣味かティーセットだけは幅を利かせていたが、アイジスの執務室に比べれば格段にこちらのほうが綺麗だ。
「あぁ、そこら辺座って」
指さされたのは一人がけのソファが二つ向き合って置かれているところ。
レイル自身は仕事用の椅子に座ったのを見てから、二人は遠慮なくそこに腰かけた。
「実はね、今ちょっとアイジスが手を離せないんだ。だから報告なら僕にしてくれるかな?」
「あ、そうだったんすね!お邪魔するところでした!」
「報告は俺が。ギノアはずっと死んでましたよ」
うげっという顔をしたギノアを笑ってから、クロノは研究所でのやりとりなどを報告した。
「うん、わかった。アイジスに魔法を試させるだけの時間があるかはわからないけれど、一応ルーエン所長からの頼みだとは言っておくよ」
「よろしくおねがいします」
それはそうと、とレイルは続けた。
「アイジスから聞いたよ?最近また仕事をさぼり気味なんだってね。それにまた制服着てないし。ちょっとは直そうとしてくれないかな?
クロノがさぼる分の仕事が他の団員にまわってるんだよ?制服も、着なければどこの所属かわからないからと、神経質な騎士に文句をつけられるかもしれないじゃないか。
僕は能筋騎士が嫌いなんだよ。問題を起こさないよう努力してくれないかな?」
「……善処シマス」
始まってしまったレイルのお説教タイムは、だいたい一時間ほど続く。
アイジスの場合怒りは爆発してお終いだが、レイルはそこのところはねちねちしていて長いのだ。
もしかすると、怒らせたら一番面倒な人物なのかもしれない。




