序
ある暴君が王をつとめていたその国は、ある日暴君の暗殺によって生まれ変わった。
新しく王座についた者は民の声によく耳を傾ける賢王として君臨した。
暴君が暗殺されて一年。
その国の最端の森の中。誰も住んでいないはずのそこに、場違いな騎士がひとり、足を踏み入れた。
暫く歩き、辺りがより暗くじめじめとしてきたとき、騎士は開けた場所にぽつんと建つ、一軒の小さな小屋を見つける。
迷いなき足取りで歩を進め小屋の戸を叩くと、しばしの沈黙の後にゆっくりと扉が開かれた。
中から顔を出したのは、美しい顔ながら酷く痩せ細った男であった。
男は騎士を目にすると驚きを隠すこともないままに勢いよく戸を閉めようした。
が、既に時遅く、騎士の足が戸の隙間にさしこまれており、男は戸を閉めることも騎士から逃げおおせることもできなかった。
しかたもなしに男は騎士に話しかけた。
「なんの御用で? こんな辺境まで来られるなど、騎士の方がお珍しい」
男の嫌味たらしい言葉に騎士は顔色ひとつ変えることなく用件を話した。
「新王国の繁栄に力を貸して欲しい。かつての王につかえし魔法使いよ」
魔法使い、と呼ばれた男はその言葉に顔をしかめた。
「私はもう魔法は使わぬと誓った身だ。それに、あのお方に最後までつかえていた私など、現王にすれば邪魔だろう」
そう、男は前王……暴君とされた王に付き従い、その最期まで共にあった者だった。
「王からの言伝てだ。お前が従わぬときは言えと仰せつかっている」
騎士のその言葉に男は怪訝な表情を浮かべた。
男をしっかりと見据えて騎士は続ける。
「あの愚王を――たのはお前だ。ならばその責任を果たすべきではないのか?」
「なぜ、それを……」
男の顔が青白く染まり、今にも卒倒しそうにふらつく。
騎士は後退る男へ追い打ちをかけるように言った。
「断るまいな?」
その日、辺境の森から人が消えた。




