第一話:一週間前
月曜日。
昼休みの教室。
一番後ろの席でボンヤリとしていたら、クラスメートの佐藤から声をかけられた。
「おい、鈴木! 凄いぞ、一挙に死刑執行、十三人だ!」
佐藤は楽しそうにしている。
バカみたいな顔をしてるなと俺は思った。
十三人とは、地下鉄に毒ガスを撒いた事件の犯人たちか。
カルト教団の仕業らしいが、約四半世紀前の事件なんで、内容はテレビのニュースでちょっと見ただけ。
詳しくは知らないし、何でそんなことをしたのかも、興味無し。
自分が生まれる前の事件だしね。
「ああ、凄いね」とだけ、俺は答える。
俺と佐藤はクラスからハブられてる。
嫌われ者だ。
何で嫌われているのか知らない。
イジメではない。
よくわからんが不気味なのかね。
仕方が無いので俺と佐藤はつるんでるが、お互い相手の事をバカにしているし、友情なんてものはない。
世の中の全てのことをバカにしている。
まあ、いわゆる中二病ってやつだな。
実際、今、中学二年生だしね。
「しかし、地下鉄に毒ガスを撒いたわりには死者は十三人か。たいしたことないな」と佐藤がニヤニヤしながら言った。
随分と不謹慎なことを堂々と言う奴だなと俺は思った。
お前は中二病真理教徒かよと言いたくなった。
一応、普通の人のように一般的な返事をする。
「酷いことを言うなあ。死んだ人も悲惨だけど、障碍者とかPTSDなったり、いまだに苦しんでいる人も大勢いるみたいだけど。可哀想じゃないか」
本当は可哀想なんて思ってないけどね。
と言って、ざまあみろとも思わない。
関心が無いんだよ。
「どうでもいいよ、俺が被害を受けたわけじゃないからな」と佐藤が下卑た顔で笑う。
ろくでもない奴だなと俺は思った。
しかし、俺もろくでなしだ。
密かに考えていることがある。
この地球を爆破して、人類を滅ぼしてやる。
頭の中に、核ミサイルを発射するボタンがある。
それを何度押したかわからない。
千回以上押した。
中学生にでもなれば、一度は人類を皆殺しにしようと思うのが普通だな。
もし思わなかった奴がいるとしたら、よっぽど恵まれた人生を送っている奴か、それとも単なるバカのどっちかだ。
もちろん、こんなことも誰にも言わない。
佐藤のようなバカではない。
「けどさあ、ユーチューブで事件の頃の映像見たけど、あきらかに、みんな、はしゃいでいるぞ。楽しんでいる。まあ、他人の不幸ほど面白いものはないからな。それもお茶の間で、無料で見れるなんて最高じゃないか」と佐藤はギャハハと笑った。
こいつは鬼畜だなと俺は思った。
とは言え、実際のところ、当時も被害者と関係者以外は、他人事だったんだろうな。
人間なんて、所詮、そんなもんだ。
地球上で、毎日、何人死んでいるのか知らんけど、いちいち、その度に泣いている奴はいないだろう。
他人のことなんて知ったことか。
「ところで、死刑が十三人、死んだ被害者が十三人、これはサタンの意志を感じるぞ」と佐藤が真顔で言い始めた。
こいつはオカルトが趣味で、なにかというと心霊現象やら超常現象とかに絡ませる。
下らないと俺は思う。
「なあ、鈴木。俺たちでやってみないか」と佐藤が唐突に言いだした。
「何のことだよ」
佐藤は急に小声になって、顔を近づけてきた。
「十三人じゃなくて、いっそ人類を滅ぼそうぜ」
佐藤は何を言ってるんだ。
頭がおかしいのか。
しかし、自分も頭の中に核ミサイルを発射するボタンがあるんだから、他人のことを言えないか。
「ああ、わかった」と俺は答えた。
その時は冗談と思ったからだ。
佐藤が本気だったと知るまでは。