なっちゃん 2
なっちゃんからLINEが来た。
「今日何してるんですかあ」
「きてよ」
行く。
自転車で片道1時間。
なぜ電車を使わないかというと
家から駅までが遠く
結局トータル1時間弱かかってしまうから。
しかしこの日は雨が降っていた。
弱い雨だったが、自転車で1時間ともなると流石に濡れる。
なっちゃんと出会ったコンビニに着き、電話をかけた。
「もしもしなっちゃん?」
『はーい』
「今近くのコンビニ着いたんだけど、何か欲しいものある?」
『うーん、チョコレート!』
「普通のやつ?」
『ホワイトじゃないやつ』
「あとは?」
『うーん、思いつかないからいいー』
「じゃあ自分が飲むものだけ買っていくね。また電話するー」
『はーい』
なっちゃんも既に飲んでいるようなので
酒、チョコ、着替えのTシャツ、自分の煙草、なっちゃんのアメリカンスピリットを買った。
前にコンビニから家まで送った記憶を呼び出して歩いた。
超弩級の方向音痴の僕だが珍しく無駄足を踏まずに到着した。
「なっちゃーん。着いたよ。」
『(部屋番)でピンポーンしてー。』
綺麗なマンションだった。
通話を繋いだまま階段を上がり部屋まで歩く。
『あいてるよ~』
暗い部屋だった。
なぜか玄関の照明しか点けておらず、そこから漏れた光の中でテレビを見ていた。
ヤマハのアコースティックギターがあった。
「アコギあるじゃん」
『んー、私んじゃないけどねー』
買ってきたTシャツに着替えて床にタオルを敷いてなっちゃんの隣に座った。
なっちゃんはジョッキに麦焼酎とガリガリ君をブチ込んで飲んでいた。
「はいチョコレート」
『やったぁ』
「あとアメスピ」
『わぁ、ありがとー』
僕もお酒を開けて飲み始めた。
テレビを見ながらたわいもない話。
2人の間にはロング缶1本分ほどの隙間があった。
「あ、今日の金曜ロードショー、サマーウォーズだよ。」
『え!その情報ナイスすぎ!』
見た。
サマーウォーズを見るのは3度目。
だが特別だった。
途中、なっちゃんの背中に腕を回し、僕は泣いた。
「もう僕涙腺緩くなってきててさ」
涙をふく僕を見てなっちゃんは笑っていた。
そのあとはバラエティー番組を見ながらひたすら飲んだ。
2L飲み切った頃、なっちゃんは眠そうにしていた。
なっちゃんの残したお酒も全部飲んだ。
僕は何度も何度も
「なっちゃんかわいい」
「なっちゃん好きだよ」
と言っていた。
なっちゃんは笑ってキスに応じてくれた。
「僕ね、3年前に彼女と別れて、それから3年間ずっとふわふわしてた。
僕のことを好きになってくれる人もたまにいたし、ちょっと気になるぐらいの子はいたけど
なんでかちゃんと好きになりきれなかった。
でも僕なっちゃんのこと好きだよ。真面目に、本気で好きになってる。
僕、なっちゃんのことなら一生好きでいられると思うよ。」
『へへへ、ありがと』
こういった場合の「ありがとう」は大概脈無しだが、
そうではなといういことは なっちゃんの顔を見ればわかった。
何度もキスをした。
そして寝た。
なっちゃんは何度も僕の名前を呼んだ。
僕も何度も「なっちゃん」と呼んだ。
なっちゃんは不安そうな顔をしていた。
でもそれがなっちゃんの感じた顔だった。
そして、眠った。
昼に2人でコーヒーを飲んでチョコレートを食べた。
アンティーク調の洒落たコーヒーカップだった。
僕が買ったアメリカンスピリットを吸っている。
2人でシャワーを浴びた。
身体を拭いて服を着て、タオルを頭に乗せたまま僕はギターを弾いた。
なっちゃんの彼氏のギターを弾いた。
なっちゃんは目を輝かせて僕を見ていた。
『すげぇ~!!』
僕の好きな曲と、僕の作った曲を弾いた。
なっちゃんは目を輝かせて僕を見ていた。
帰るのが名残惜しく、またテレビを見た。
チョコレートの包み紙でなっちゃんは飛行機、僕は鶴を折った。
またしてもなっちゃんは目を輝かせて小さな鶴を見ていた。
『器用なんやねぇ』
「うん。指先だけはね。」
まだテレビを見ていた。
ずっとここにいたかった。
「僕、そろそろ帰らなきゃ。」
なっちゃんは下を向いて唇を尖らせた。
頭を撫でる。
「そんな悲しそうな顔しないで」
顔を上げたかと思うとキスを求めてきた。
求められたのは初めてだった。
なっちゃんは玄関までついてきてくれた。
『また会ってくれる?』
「当たり前。なっちゃんが好きって言ってるでしょ。」
『うん』
「また遊ぼうね。今度は外でお店とか行っても楽しいかもね。」
『...』
「じゃあね。」
最後のキスをして、部屋を出た。
扉が閉まるまでお互い目を合わせていた。
雨は止んでいた。
途中に通った玉ねぎ畑の匂いが妙に懐かしく感じた。
家に着いて、なっちゃんにLINEした。
「ただいま」
『お疲れ様じゃあ』
「ありがと」
「なっちゃん好きよ。本気で。真面目に。」
『私も好きだよ』
『私、腕とか太ももに傷あるじゃろ
人によったら不快にさせることもあるから
先に言っとくべきだったんじゃけどさあ
脱ぐ前に言うの忘れてた。
嫌な気持にさせちゃってたらごめんね』
「気にしないで。そんなん人それぞれじゃろ。」
「俺なんて顔面に傷あるしさ。」
『ありがと』
『帰っちゃってさみしい』
「なっちゃんそんなこと言ってくれるんだ」
『さみしいから枝豆いっぱい茹でた』
『こりゃうめえわ』
僕たちは、少しずつ幸せを手に入れようとしている。