魔道具スマホ
ブックマーク1人きました。
ありがとう、ありがとう。
小躍りしながら書いたせいでちょっと文体がおかしいかも
今日ばかりは家に帰る気が起きないトキオは、手元にある小銭を数えてため息をつきました。食つなぐだけでもお金がいるのです。トキオは、早い・安い・美味いが売り文句のギュウドン屋で晩御飯を済ませ、これからどうするかを考えました。
~リコ・クロウド 魔法研究員著 カガクの世界 4巻18頁より~
「……僕は顔を外したりできない」
顔をかせと言われたアルフレッドは先ほど頭を取り外した光景を思い出す。
やはりこの美しい女性は魔獣なのだろうか。人の顔を取り換えていくような……。
そんな不安をよそに、彼女は数秒の間の後めんどくさそうな声で言う。
「……あー。赤髪はガイコクの人か。ついてこいって意味だよ」
そう説明すると、彼女は動かなくなった魔獣の元に行き、立ち上がらせる。
「……どこに?」
敵か味方かもわからない相手についてこいと言われても、ただただ戸惑うしかできない。
見せもんじゃねーぞ!失せな!と周囲の人に声を荒げた後、その美人の女性はポケットから板切れのようなものを取り出す。野次馬がアルフレッドに向けていたそれだ。
「それは……なに?」
「あんた、スマホ知らないのかい?デンワだよデンワ。ちょっとまってて」
彼女はスマホと呼んだ板切れを耳に当て、ぶつぶつと独り言を言い始めた。
ひとまず、相手が自分を攻撃してくる様子がないことに安堵し、アルフレッドは聞き覚えのある単語をどこで聞いたのか記憶をさぐる。
デンワ。
記憶が確かなら「カガクの世界」に登場する、遠距離で話すために設置されたキカイがそういう名前だったはずだ。
ということは、この女の人はその架空の技術をこの板のような魔道具に搭載することに成功した、ということだろうか。
それを用いて、誰かに報告をしている。
魔法研究員。
通常では考えられない魔道具を使っているかもしれない、と理解したアルフレッドは、その単語が頭の底から出てくる。
そう考えたら、魔獣を使役していたことも強引だが説明がつく。
この人はペンタニオンの人で、魔法研究所に報告をしているんだ……。
逆らってはいけないような相手である可能性に思い当たったので、アルフレッドはひとまずついて行くことを決心する。
「あーもーだからごめんって!本当に事故なの!めんどくせえなあ。
おい、赤髪!」
女性はアルフレッドに近づきながら言う。
「こいつにちょっと事情を説明してくれ……ほんとうっさいんだ」
女性はアルフレッドに向かってスマホを耳に近づけてくる。
受け取ったアルフレッドの耳には、今まで女性の耳に届いていたであろう男性の声が聞こえてきた。
『ドタキャンのいいわけか!おい!声が聞こえんぞ!?』
怒ったような、慌てたような声にアルフレッドはなんと返答するか一瞬迷った。
しかし、考えてもどうしようもないので、思った通りに嘘偽りなく話そうと決心する。
「あー……こんにちは?」
スマホから返答がない。やはり使うのには魔力がいるのだろうか。
『……おい里香!やっぱり男じゃねえか!お前に里香に手を出してただですむと思ってんのか!?』
どうやら大丈夫なようであった。
「えっと……ごめんなさい。でも手を出されたのは僕のほうって言うか……」
『あん?里香から手を出したっておまえ、そういう言い訳する気か?』
アルフレッドは事情を説明しろ、という彼女の命令をなんとか守るためにしどろもどろで話す。
「あの、僕は最初は里香……さん?のこと全然知らなくて……いや、今も綺麗な人だっていうこと以外全然知らないんですけど。それで、最初は里香さんが僕を襲ってきたんです。僕は怖くて逃げたかったんですけど……でも僕は力が弱いので逃げることができませんでした。えっとそれで……今は里香さんがちゃんとした人間だって判明したので、ついて行こうかと思っている状況です……」
ごめんなさい、ととりあえず怒っている様子の声の主に謝るアルフレッド。
スマホの声はしばらく止まった。
故障したのかと思ったころ、再び声がスマホからしぼりだされる。
『お前……何歳だ?』
唐突に年齢を聞かれたので、15歳であることを戸惑いながら答える。
『まだ……チュウガクセイかよ。いや、もうコウイチか?
……いや、それはいい。確認するんだけど、それで、お前は里香に……あー、無理やりというか、理不尽に襲われたわけだ?その、なんだ、お前からは何もしていないんだよな?』
何か複雑そうな雰囲気の声。
「そうですね。もともと僕は図書館で本を読んでいたんですけど……なんでこうなったのかすら分かっていないんです。気が付いたら襲われていました。僕からは何もしていないと思います」
誤解はアルフレッドの今後にも関わる可能性があると判断したので、なるべく明確に答える。
スマホの声はしばらくあーうーとうなっていたが、しばらくして里香にかわれとだけ伝えてくる。
アルフレッドは魔獣の様子を調べている里香にスマホを渡す。
里香は礼を言ってスマホを耳に当ててまたも話し始める。
里香はついてこいと言ったが、いったいどこに行くつもりなのだろう。
スマホを持つ人がたくさんいた。全てがデンワの機能を持つのであれば、彼らも魔法研究員ということになるのだろうか。
もしそうならば、ここは王都ペンタニオンに違いない。
魔法研究員がこんなにも1カ所に集まるなど、研究所以外に考えられないからだ。
もしかしたら、気づかないことて問題を起こしていたのかもしれない。
いや、今回の場合はむしろ転移魔法を使ったことが問題なのではないか。
そんなようなことを考えていると報告が終わったらしい里香が戻ってくる。
美しい顔でめんどくさそうな表情をして、頭をかきながら言う。
「悪いね。こいつ思い込みが激しくてさ。なんか私があんたを食べちゃったって話になってたよ」
人を食べるなどというとんでもない発想がさっきの話からどうして出てくるのだろうか。アルフレッドは皆目見当がつかなかった。しかし、ひとまずの話はついたようなので心のうちに止めておく。
「後で壊れたとこのシャシンでも見せながら話せば理解すると思うし、ちょっとこっちこい」
里香は動かなくなった魔獣にもたれながら、手を招く。
アルフレッドは魔獣が死んでいるのかどうか判断がつかない。里香は安全だったとしても、魔獣が生きているのであれば、近寄った瞬間に噛み付かれる可能性すらある。
アルフレッドは恐る恐る尋ねる。
「僕のこと……食べませんよね?」
里香はずっこけたように肩をカクンと落とす。
「お前もかよ!食べないよ!さすがに15歳は食べないから!」
里香はそう言って早く来いと手招きする。
アルフレッドは恐る恐る魔獣に近づく。
「あんた、バイク触るの初めて?」
「バイクって言うの?」
里香はびっくりしたような顔をする。
「あんた、バイク知らないのかい?一人用の乗り物だよ」
アルフレッドが上級魔獣だと思っていたそれは魔獣ではなく、バイクという名前の乗り物であるらしい。
馬車などの運搬用の乗り物はなじみがあるが、それ以外の乗り物はアルフレッドは見たことがなかった。
ということは、生きてはいないのだろうか。
里香はアルフレッドをバイクの隣に立たせてスマホを向ける。
カシャっと音が鳴る。
「今のは?」
アルフレッドが尋ねると、里香はスマホを見せてくれる。
そこにはアルフレッドとバイクと周りのへんてこな景色との絵が写っていた。
異常な技術であった。土系の才に恵まれた人間が、色彩魔法を必死に使ってできるような色彩豊かで精密な絵。それをさっきの一瞬で、この小ささに描かれていたのだ。
「これ、デンワじゃないんですか?」
驚愕しながらアルフレッドが尋ねると、里香は説明する。
「スマホはデンワ以外にもいろいろな機能を持ってるんだよ。今のはシャシンでその場の映像を保存できるんだ」
アルフレッドはシャシンという言葉を思い出す。
「カガクの世界」に家族シャシンというのが登場する。アルフレッドは小さな絵のようなイメージであったが、このように一瞬で完成する物だとは思わなかった。
「あんた、本当に何も知らないんだね……。そのわりにはニホンゴがうまいけど」
里香は不思議そうな表情を見せていたが、まあいっか、と言ってスマホの操作に戻る。
「それで……僕はどこについて行けばいいの?」
アルフレッドが尋ねると、里香はそのメプルの花のような笑顔をにいっと咲かせて嬉しそうに言う。
「ギュウドンだよ!」
プロット上、この話で牛丼食べに行く予定でした。
でも食い違い会話が思いのほか楽しくて……伸びてしまいました。
もう少しのんびりとした回になります。