四角い上級魔獣
平日も書きたいけど土日のほうが筆が進む現象
風というのは非常に制御するのが難しく、狂風と大雨の自然災害を前にすると、人々は家に引きこもり、過ぎ去るのを待つしかありません。しかし、トキオは姉を探すためにタイフウの中を走っていきました。
~リコ・クロウド 魔法研究員著 カガクの世界 2巻68頁より~
高く、不自然に四角い建物が立ち並ぶ。非常に薄いガラスの窓は建物同士の影に隠れ、日の光を反射できている窓は少ない。
木々や植物の類は存在しないわけではない。しかし、建物同士を仕切るように生息しているそれらは、とってつけたような違和感を感じさせる。
建物の間を縫うように、人々がアリのようにうじゃうじゃと行きかっている。
獣士祭などの祭りの会場であったならばこれほどの人口密度を見ることができたのかもしれないが、ここにいる人々はどこか忙しそうに歩を進めていくのみ。間違ってもお祭り騒ぎを始めようというような雰囲気ではない。
魔法陣に吸い込まれたアルフレッドはそんな場所に突如放りだされた。
一瞬の浮遊感によりバランスを崩しそうになるが、なんとか踏ん張る。
「……なにここ?」
アルフレッドは目に飛び込んできた、建物を見上げる。飛行型の魔獣どころか、ドラゴンが飛ぶ高さまで届きそうだ。それが一つだけではなく、あちらこちらに建っている。
唖然としたアルフレッドは周囲を見ようとしたところ、威嚇するような大音量に跳びあがる。
音のした右を見ると、四角いものがこちらに突進してきていた。
「魔獣!!」
その魔獣は白く、ビッグボアが2頭並んだよりもさらに大きい巨体であった。
無機質な体表は土系の魔獣であることが想像できる。
その魔獣が拡声魔法をかけたような大音量で威嚇をし、風魔法を使っているとしか思えない速度でアルフレッドを襲おうとしている。
もし想像通り土系の魔獣であるならば、硬化の魔法もかかっているのではないだろうか。
系統の違う魔法を2つも3つも使う魔獣。それが意味することはつまり……。
上位魔獣ってことじゃないか!
アルフレッドは内心の焦りを加速させ、咄嗟に回避行動をとる。
不自然に平坦でまっ黒な地面を蹴り、魔法の風を推進力に前方へ加速し、跳躍する。
四角い魔獣は急なアルフレッドの動きを警戒したのだろうか。速度を強引に落としたため、アルフレッドは衝突を免れることに成功する。
一息つける、そう判断しそうになったところでアルフレッドは先ほどの魔獣とは逆方向、左側から同様に突撃してくる生き物を視界にとらえる。
「って人!?」
第二の敵を視界に入れたアルフレッドは自分の目を疑った。
子供のビッグボアと同じくらいの大きさの魔獣。その小柄で無機質な魔獣の上に青いズボンをはき、黒い上着を着た人のような姿をした者が乗っているのだ。
後ろには先ほどの四角い魔獣の色違いを引き連れ、ブロロとうなり声をあげながらこちらに向かってきている。
人が使役している!?いや、あれも魔獣!?
魔獣の上に乗っている人は姿こそ服を着た人間のように見えるが、頭部は無機質で卵のような形であった。鼻や口などもぱっと見た感じでは見当たらない。頭部だけを見ると奇妙な魔獣のようにも見える。
アルフレッドは思考をやめ、どちらだとしても今は敵だ、と考えるまでにとどめる
人のような生き物を乗せた小型魔獣はぐいっと左折方向に曲がる
加速したアルフレッドと接触する軌道だ。
魔法の才能があれば何らかの対処することができたのかもしれない。せめて中級魔法さえ使えれば、空中に逃げることもできたであろう。
しかし、アルフレッドにはそれができない。アルフレッドには一度加速した体を減速したり、方向を変えたりする力はない。
「いやだ!」
アルフレッドは衝突の痛みを想像し、そのあと上級魔獣に立て続けに攻撃されることを想像し、その結果ちらつく死という絶望を肌で感じる。
その結果、アルフレッドは攻撃のために魔法をひねり出す。
本来、この速度を出す魔獣は風系の魔法の扱いに慣れていることが多いため、風系の魔法で攻撃をするのはあまり褒められた判断ではない。
だが、魔法を戦闘に使う経験も才能もないアルフレッドには咄嗟にそのような判断をする余裕などない。
アルフレッドは弱弱しい魔法の中から最も慣れ親しんだ風系の魔法を選択する。
風と言うほどでもない、ただの空気の塊がふわっとアルフレッドの前に発生する。
アルフレッドはそれを、持っている全力で魔獣の上に乗っている人型になげつける。
空気の塊をぶつけられた人型は、飛ばされるほどの力を受けたわけではない。
しかし、上半身を持ちあげられ、ろくに魔法に抵抗することなくバランスを崩す。
魔獣は10歩ほどの距離のところでこけて、滑りながらアルフレッドに近づく。
アルフレッドは魔法もくそもない、単純な跳躍で避けようとするが、片足がひっかかり、こけてしまう。
なんとか避けきった、という事実に一瞬安堵しかける。
しかしこの体勢のアルフレッドに、あのスピードの上級魔獣が襲ってきたならば、アルフレッドの命はもはや絶望的である。
アルフレッドはこけた痛みに歯を食いしばり、立ち上がりつつ、後ろにいた魔獣を警戒する。
しかし、アルフレッドは妙な違和感を感じる。
「……無視?」
後ろにいた四角い魔獣はアルフレドを無視してそのまま走り去っていった。まるで眼中にないかのように。
恐ろしいことに、その魔獣の後ろからも続々と似た四角い魔獣が出てくるのだが、アルフレッドを警戒する様子も攻撃する様子も見せずに、ただただ無視して通り過ぎていく。
それでもしばらくアルフレッドは大量の魔獣を警戒したが、ひとまずの安全が確認できたらしいアルフレッドは周りに視線をやる。
アルフレッドの周りには人がいた。まるでアルフレッドが見せ物であるかのように10人から20人の人間が周りにいる。
黒い服の男性が多いが違う服装の人もたくさんいる。ほとんどの髪の毛が黒いのでそういう民族なのだろうか。
コーツージコだってよ。
バイク大丈夫かな。
え、ガイコクジン?
知らない単語を使ったひそひそ話が耳に入り、不安感を掻き立てる。
半数ほどの人間は本の1/4ほどの大きさの四角い板をこちらに向けている。それが奇妙で、アルフレッドの不安感をさらに増幅する要因であった。
「ねえちゃん、おい、大丈夫か?」
アルフレッドの後ろで声がした。
ふりかえると、先ほどの小型魔獣が倒れたまま木の根本で動かなくなっていて、上に乗っていた人型はよろよろとこちらに向かって歩いてきていた。
側にいる、声をかけている男性には目もくれない。
逃げよう、そう判断した。
しかし直後、その人型はその無機質な頭部を自らの手で取り外した。
そのおぞましい行為に絶句したアルフレッドは動けなくなる。
取り外された無機質な頭部の下から人間の頭が現れる。
その頭を見てアルフレッドは息をのみ、さらに絶句する。
人間の頭が出てきたことは、絶句の理由ではない。
出てきた女性の整った顔。短くそろえられた黒髪。大きな黒い瞳。赤い唇。
その美しさに、アルフレッドは魅了されていたのだ。
アルフレッドは金縛りにあったように動くことができない。
魅了の魔法にかかったことのないアルフレッドはこれが魔法的なものなのかすら判断ができない。
その女性はアルフレッドのそばまで歩いてきて、メプルの花のような笑顔をにんまり浮かべてアルフレッドに話しかける。
「おい、赤髪。ちょっと顔かしな」
魔法の才能の無いアルフレッドが、魔獣を乗りこなす美女、七瀬里香に出会った瞬間である。