生きていくこと、死んでしまったこと、ぜんぶ頑張った証。
すごい物音。
喧騒。一瞬でわたしの心を黒く染める力を持ってる母の卑劣な叫び声とキチガイになったようなビリビリに破れた声。父の泥を撫でるような謝罪の声とそのうち爆発しそうな気配が漂う声色。ママとパパが喧嘩してるんだ。
わたしの大切にしている丸くて胸の中にある宝物が、外から来た変な色のバサバサな毛並みのボロボロな筆でめちゃくちゃに乱暴にぐちゃぐちゃにされていく、割れてしまうくらいに強く攻撃してくる。あぁ、この大切な大切な丸い宝物を守らなくては。自分で自分の両肩を抱きしめてやった。そしたら少し上でその様子を見ていたわたしが、ひどく憐れだと傷ついてしまった。そしたら、わたしもひどく傷ついて、胸の丸い七色の宝物にヒビが入ってしまった、ガクッとずれたヒビ割れでその周りのわたしの肉が切られている。痛い。とにかく痛い。崩れてバラバラになってゆくわたしの宝物の一部は触れると切ってしまうような攻撃性を含んだただのちっぽけな屑になってわたしのお腹の方へ落ちる。お腹がチクチクしてズキズキして、あぁ、丸い宝物がチクチクする屑になってしまった。と心底絶望してしまう。でもまだ丸い宝物の大体部は残ってる。あぁ、よかった。よかった。でもボロボロにされてしまった。苦しい。そのまま眠りに再びつきそうだった。朝の光はなんの祝福もなかった。母がバタバタとドカドカとこちらへ来る足音。殺されたらどうしようか。必死で後から追って来て母を止めようとする父。パパ、今更何を止めるの。もうわたしの一部は死んでトゲトゲした屑になったよ。今更何を止めるの。体はビクビクしていた。脳が焦ってるのだ。わたしが心だけで生きている生き物じゃなくてよかった。脳もわたしを生かすために、尽力してる。「あんたさえ!いなければ!」大好きなママ。可愛らしいママ。でもわたしが憎いのだ。振り上げた母の右腕は、わたしが甘えてやまない大好き右腕だ。ギリギリのところで父が母の右腕を掴んだ。パパ、体は無事だったよ。でも死んだよ。心の一部は今のことで死んでしまったよ。丸い死んだチクチクの屑はわたしのお腹に長年たまり続けて、いつかわたしのことを死へと導くのだろう。一人で生きよう。そうしなければ。わたしが面倒じゃない人なんていないだろう。産みの母がこうだ。実父はたまにわたしを嫌いそうな顔で見るのだ。一人で生きよう。誰にも迷惑かからないように。目立たないように。一人で生きていこう。愛を望まずに。決心したのは小学1年生だった。