01-009 練習試合
09/01 投稿
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「じゃあ、私の使い魔は邪魔になるからここまでね。サテナの使い魔は・・・邪魔と言うことも無いみたいだから、そのままでいいわ」
住宅街エリアの結界の入り口で、卯花の頭の上の白い鳩が偉そうに宣言して飛び立つ。
「では、制限時間は30分、各自四方の開始位置についてくれ。3分後開始の合図をする。全員、このインカムを付けて、今回は俺の指示に従ってくれ」
卯花は指示された開始位置への移動中に周囲を観察した。
─━これは、全部がコンクリートでできているのかな?ドアも窓も開いているだけで、中はがらんどうだけど、隠れやすいから良いね。ここで、かくれんぼうして見つかるのかな?
各自開始位置に付くと、スピーカーとインカムから赤坂の声で開始が宣言された。その後にけたたましいブザーが鳴り響いた。
青山は思惑と違う状況に困り果てていた。
─━失敗したわ。卯花ちゃんと試合するなら菫ちゃんを加えないと二人が納得してくれないだろうから、団体戦ルールで卯花ちゃんと菫ちゃんを入れたのに、その後が想定外ばかりになるなんて。
─━卯花ちゃんと菫ちゃんが同盟になるのは良いんだけど、フィアちゃんなら同盟に誘って、フィアちゃんに菫ちゃんの注意を逸らしてもらうはずだったのに。
─━サラちゃんは同盟とか小細工が出来ない人だから、近くに居た人と全力で戦闘するだけよね。どうにか、菫ちゃんと戦う状況に持って行かないと。これじゃあ、卯花ちゃんと戦うことが出来ないじゃない。
─━でも、卯花ちゃんと菫ちゃんは最初から隠れて逃げるわよね。赤坂が余計なこと教えなければ、サラちゃんが卯花ちゃんめがけて突っ込んでいって、菫ちゃんと戦うことになったはずだったのに。
─━目的は、中級上位妖精が卯花ちゃんを攻撃するか確かめること。中級下位妖精が卯花ちゃんに当たる近距離で喚起し攻撃されることが可能か確かめること。これは集中する時間を考えるとたぶん無理。
─━裏の目的として、卯花ちゃんがちょっと真面目に試合すれば簡単に負けないはずだから試合を楽しませて、そういう練習も嫌がらない様にすることだったのに。
─━今、召喚可能な契約妖精は中級上位の水妖精だけなのも痛かったわ。召喚対価を用意しておくべきだったわね。
─━まずは、卯花ちゃん達を見つけないとサラちゃんと戦うだけになっちゃうから、サラちゃんに見つかるリスクに目を瞑って中級上位水妖精に卯花ちゃんたちを探させるしかないかな。
─━団体戦なら状況次第で、目立たないために隠れて試合を捨てたいくらいよ。
青山の周囲に小さな水の魚が泳ぎだし、徐々に泳ぐ範囲を広げていく。
サラは楽しんでいた。
─━ボク、このエリアを使うの久しぶり。誰か居ないかエリアの真ん中に行くかな。
サラの周囲に火の小鳥が舞い始める。
菫は決意していた。
─━あの、卯花先輩は守らなくちゃ。
菫は契約妖精を呼ばずに卯花の開始位置へチョコチョコ走る。
卯花はのんびりと菫を待っていた。
─━菫ちゃんは私と戦わずに護ろうとして合流を目指してくれる、たぶん。
─━戦おうとするのはサラちゃんと青山副会長だけど、青山副会長はエリアの逆の位置だし、サラちゃんは私だけに狙いを絞らない、たぶん。
卯花が一応塀に隠れて辺りを見回していると、菫がキョロキョロしながら走ってくる。
「良かった。菫ちゃん、こっちよ。動かない方が菫ちゃんに見つけてもらえると思って待っていたのよ」
「あの、卯花先輩、怪我は有りませんか?どこか痛いところは?」
「まだ、隠れていただけよ。誰とも遭遇していない」
卯花は菫が心配性すぎるなと微妙な笑顔で話ながら、空を見つめた。
「エリア中央の強そうな妖精はサラちゃんかな?菫ちゃんの開始位置寄りに居る強そうな妖精は青山副会長かな?」
「あの、この距離で分かるんですか?」
「なんとなくだけどね。特に強そうだし、力があふれているから」
「あの、普通はそんなこと分かりません。契約妖精を召喚していても近くに居ない場合は、中級上位の妖精を喚起して索敵させるんです」
「妖精にそんな事させられるんだ」
「中級上位から、『あの辺に誰か居ないか見てきて』くらいの簡単な依頼ができるそうです」
「ただ隠れているだけじゃあ、見つけられちゃうのね。少し積極的に動かないとダメかな。菫ちゃん、こっち」
「あの、そっちに青山副会長が居るんですよね」
「うん。30分隠れるの無理でしょ。遭遇するなら変な場所じゃなくて、こっちの思惑に合う場所の方が良いから」
卯花達がしばらく進むと、水でできた小さな魚が泳いで家の陰から出てくるのが見えた。
「あれが中級上位の水妖精か。綺麗ね」
「あの、はい。今は誰か居ないか探しているだけで攻撃はしてこないと思います」
「そうね。害意は無いみたい。もう少し近づいたら走って逃げるけど、契約妖精は召喚しないでね」
「あの、はい。位置を教えちゃうんですか?」
「一度位置を把握されても、すぐに見失うと思うから大丈夫よ。あ、増えてきた。そろそろね」
「あの、はい」
卯花達が壁の陰で様子をうかがっていると、青山が小走りで駆けてきた。
「逃げるわよ」
卯花は走り出すとともに、「見ないで」と念じるのを止め、「えーい」と気合を入れる。
「あ、卯花ちゃん待ちなさい!」
青山が追いかけてくるけど、待ちなさいと言われて待つ人は居ない。卯花と菫は逃げるのに必死だ。
「やっと見つけた!せっかくの施設だし、ボクと勝負しようよ!」
サラまでもが全力疾走で現れ、大声で叫ぶ。
卯花達は道を何度も曲がってジグザグに逃げ、しばらくした後に後ろを振り返った。
「菫ちゃん、もう大丈夫みたい。サラちゃんと青山副会長が戦い始めたよ」
「あの、ディエル先輩は青山副会長と戦っているんですか?」
「私達は契約妖精を召喚していないし、契約妖精を召喚して臨戦態勢の青山副会長が居れば、サラちゃんはそっちに向かうでしょ」
「あの、なんでディエル先輩が来たんですか?」
「私は妖精に反応されるから、『見ないで』を『集まって』の気合に変えたのよ。サラちゃんもすぐに妖精の反応を見つけたのよ」
「あの、どっちが勝ちそうですか?」
「サラちゃんは疲弊しているみたいだし、青山副会長はサラちゃんと戦いたくないだろうし、どうかな?それにしても蒸し暑いね」
卯花は空を見つめてサラと青山の契約妖精を様子を窺っていると、菫がハンカチを出して卯花の額の汗を拭う。
「あの、火妖精と水妖精の戦いは、正反対の属性なので力勝負になりやすいそうです。水蒸気ですごいことになっているのかも」
ここまでで二十分近く経っている。サラと青山が戦って、どちらが勝っても残り十分弱だろうから、隠れていて、最悪は菫に護ってもらえば逃げ切れる。
卯花は緊張を解いて、サラと青山の戦いの結果を探っていると、二人がこちらに向かってくるようだ。
「菫ちゃん、まずいわ。二人が共闘するみたい。サラちゃんが青山副会長と戦わないなんて・・・」
「あの、たぶん、ディエル先輩は青山副会長に言いくるめられたんじゃないかと思います。ディエル先輩、青山副会長には弱いみたいで」
卯花は空をにらみ、状況を把握しようと努めたが、二人が一緒に移動していることから共闘は確実だろう。ただ、サラの契約妖精の様子が少し変に感じた。
「二人が協力している索敵を私達が掻いくぐるのは無理がある。菫ちゃんにお願いが有るの」
長~~~~~~~~い目で見てください。