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01-008 魔法を体験

09/01 投稿


「昼休みも半分か。せっかく、ここの施設を使っているんだから、なにか他にやること無かったかな?」


 赤坂がみんなを見回しながら思索にふける。


「やっぱり、白井さんだよな。ここまで見ていて、何か感じること無かったか?自分の契約した妖精とか」


「いいえ。自分の契約した妖精とかは、全然分かりません」


「白井さん、周りの妖精に集まるようにお願いしてみてくれ」


 赤坂の依頼で、卯花は胸の前に手を組んで「うーん」とか「えーい」とか気合を入れた。


「おお、集まってくる。壮観だな」


 パタパタっと、頭上から音が聞こえたと思ったら、卯花の頭に白い鳩がとまる。


「ええ、なに?」


 卯花は慌てて、白い鳩を追い払おうと手をかざしたり逃げたりするが、また、卯花の頭に白い鳩がとまる。


 数回繰り返したが、白い鳩はただとまるだけなので、卯花は諦めることにした。


「何なんですか?この鳩」


「さあな」


 赤坂が楽しそうだ。ちくしょう。


 自分の不幸を呪っていた卯花は、地面で不器用に羽ばたく黒い小動物を見つけ、踏まれては可哀想だとしゃがんで様子を見る。


「コウモリ?」


「その子もずっと飛んでいたわ。白い鳩の方が目立つから気が付いていない人が多かったけど」


 青山の言葉を聞きながら、卯花が蝙蝠を見ていると、蝙蝠と目が合う。


 卯花が手の平を差し出すと、蝙蝠はヨチヨチと卯花の手の平に乗り丸まって眠り始める。


「間近で蝙蝠を始めて見ましたけど、可愛いかも」


 卯花は蝙蝠を起こさないように気を付けながら立ち上がって、菫達に蝙蝠を見せていると。


「私の使い魔を引っ張るのはやめてちょうだい」


 卯花の頭に鎮座した白い鳩が苦情を言い出す。


「「「「しゃっべった!」」」」


「ルシルさん?」


「やっぱり卯花ね。いい玩具が居ないかと・・・。いいえ。安全を監視するため、派遣している使い魔にちょっかいを掛けないで」


「じゃあ、こっちの蝙蝠は、えーと、『七の魔女』の?」


 卯花達の力が抜け、へたり込みそうになる。


「サテナさん?」


 辺りが暗くなった。


「サテナちゃん?」


 世界が元に戻り、卯花達の体が急に軽くなる。


「白井さん、勘弁してくれ」


 赤坂が涙目で卯花に抗議するが、「私のせいじゃない」と卯花は睨み返す。


「今回は許すけど、そんなに力を込めて妖精を呼ぶ必要無いでしょ。結界が無かったら、何が来るか分からないじゃない」


 頭の上の白い鳩が胸を張って偉そうだ。


「すいません」


 卯花は何をどうすれば良いのか分からないが、迷惑を掛けたならと謝罪する。


「使い魔達は無視してくれれば良いわ。サテナの使い魔は肩にでも乗せておいて」


 卯花は恐る恐る蝙蝠を肩の上に移すと、蝙蝠が器用に肩へしがみ付く。


「ああ、くすぐったいから首筋に顔をグリグリしないで」


 サテナ自身なのか、似た者同士なのか、サテナが透けて見えるような使い魔だ。



「しょうがない。このまま続きをしよう。白井さんは自分に敵意や害意を持つ妖精を見たことは有るか?」


 赤坂が頭を振って気を取り直す。


「一度だけです」


「その時はどうしたんだ?」


「逃げ回りましたよ。それで女性に助けてもらいました。その女性にこの学園を教えてもらったんです」


「どんな妖精だ?」


「確か、女性がオルトロスと言っていたと思います」


「オルトロス?かなりの上位に位置する上級妖精じゃないか。よく無事だったな」


「そうなんですか?大型犬くらいあったから、私は怖くて逃げ回るだけでしたけど、女性は簡単に倒していましたよ?」


「すごいな。警備の人間かな。まあ、それは良いか。他に白井さんへ敵意や害意を向けた妖精が居ないのか。ちょっと、試してみるか」


「試す?」


「妖精でも中級の上位くらいから、自分の意思みたいなものが強い妖精が居るんだ。上級妖精になると普通は意思を持っているな」


「はあ」


「意思が有ると言うことは敵意や害意を向けてくるのが居ると言うことだな。強い敵意や害意を向けられるのは邪魔になりやすい魔法使いだな」


「ええっ」


「魔法使いなのに護身が出来ない白井さんは危ないと言うことになる訳だ。妖精じゃなくても他の魔法使いから敵視されるかもしれないしな」


「そんな・・・」


「妖精や魔法使いから身を護ることは、魔法使いに必要不可欠な技能なんだよ。だから、どのくらい自分で身を護れるかを白井さんは覚える必要が有るだ」


「まさか、試合しろとか言うんですか?」


「試合まではしなくていいよ。身を護る方法を覚えるだけだ。こうすれば逃げやすいとかを覚えた方が安全だろ」


「そうですね。オルトロスとか本当に怖かったし」


「護身冠をしているから、一回は護身冠に護ってもらえる。白井さんは良く見えているから、まずは自分に害意を向ける妖精を見てみてくれ」


「大丈夫なんですよね?」


「護身冠は契約妖精が送還された後の最後の砦だから、一回は絶対に大丈夫だ。それに予備の護身冠は何個か持ってきているから、何回か見れば害意有る妖精が分かる様になるよ」


「分かりました。お願いします」


「俺はもう疲れてるし、火妖精は見た目が怖いから、青山しか居ないな。お願いできるか?」


「最下級の水妖精で良いのよね。卯花ちゃん、そっちに立って、手を横に上げて、行くよ」


 青山が手早く卯花に指示を出して、卯花に向かって小さな水の球を打ち出すが、逸れて卯花の後方に落ちた。


「え?ちょっと待ってね。こんなの有り得ないわ」


 青山が困惑して赤坂を見ると。


「最下級の妖精は威力や速度が無い分、追尾しても指示された的へ当たりに行くから、青山が外すわけないよな。ちょっと、近くで見させてくれ」


 赤坂は卯花の横に来て観察するが、同じ様に青山の水の球が外れ、赤坂の表情が曇る。


「すまん、意味が分からない。追尾どころか避けているように見える。白井さんは見ててどうだ?」


「うーん。水妖精が焦っている様な気がします」


「妖精が原因なら、属性を変えるか。青山、属性を変えてやってくれ」


 風、土、光、闇の最下級妖精を打ち出すが外れる。風妖精など赤坂に当たりそこなった。


「最下級妖精じゃダメってことか。下級妖精を試してくれ」


 各属性の下級妖精も全部外れてしまう。


「青山、俺は後ろを向いて絶対に動かないから、練習服になって中級妖精を試してくれ」


「今、すぐに使える中級妖精は水だけよ?」


 青山が頬を染めて、少し恥ずかしそうだ。


「ああ、属性は関係無い気がするから問題無い。たぶん、音無さんと一緒だ」


 青山が制服を脱いで、卯花とともに小結界の中に入る。


「卯花ちゃん、みんなに見える様に結界のギリギリの位置でやりましょう。そう、その辺」


 卯花は青山の指示通りの場所に立つが、小結界の中の戦闘跡を見て身が震えた。


「じゃあ、行くわよ」


 青山の周りに濃い霧が立ち込め、水の小さな槍のような物が卯花の手の平に当たり、卯花の護身冠が砕ける。


「おーっ、やっと当たったか。白井さん、どうだった?」


 赤坂が嬉々として卯花に様子を聞くが。


「いえ、違和感が有ったわ。たぶん、この近距離のせいで中級妖精が卯花ちゃんを避け切れなかったのよ」


「はい、妖精がすごく慌てていました。害意は無かったんじゃないかな?オルトロスとは違いました」


 青山と卯花は小結界の出入り口から出て来ながら、口々に実験の失敗を告げる。


「そうなのか。確かに、あれは高速直進して威力を増すための中級妖精だからな。そうなると意思の強い妖精じゃないと駄目ってことになる」


「ねえ、学園ルールじゃなくて大会ルールなら、卯花ちゃんって、けっこう強いんじゃない?」


 青山が期待に満ちたような目で赤坂に詰め寄る。


「学園ルール?大会ルール?」


 卯花は自分の知識に無い単語の説明を求めて、赤坂と青山を見た。


「俺達学生は危険だからと言う理由で契約妖精が送還されたら勝敗が決まるルールにしているけど、それだと複数の契約妖精が使えない。契約妖精の二重召喚は出来ないのに、別の契約妖精を使うための送還が出来ない」


「なるほど、そうですよね」


「だから、ちゃんとした大会は護身冠が砕けた時点で負けになるんだ。少し危険が伴うけど、大会はサポート体制が充実しているから、十何年くらい事故が無いんじゃないかな」


「契約妖精が呼べなくても試合ができるんですね。嫌です。怖すぎます。護身冠を複数持ち込むのは有りなんですか?それなら、考えますけど」


「いや、護身冠は体のすぐ近くに有るだけでいっぺんに砕けるよ。所々に置いても、使用者の魔力を数分かけて吸収して使用可能になるから、複数の護身冠を有効利用するのは難しいんだ」


「あんな火の海とか。私じゃあ、確実に火葬されちゃいます」


「あれは俺とディエルさんだからだよ。それに大会ルールならもっと広くて障害物が有るから、火の海になんてならない」


「でも、私が勝つ方法が無いですよね?妖精に相手を攻撃させることが出来ないんですから」


「ほとんど、無い。逃げ切るかの勝負だから、良くて引き分けだな。でも、大会の実力上位相手に白井さんなら逃げ切れるかも知れん」


「それって、私が怖い思いするだけじゃないですか」


「白井さんの勉強にはなるよ。色々な妖精や魔法使いが見れるから」


 他人事の赤坂が、平然と言い放つ。


「大会に出るとかじゃなくて、自分の身を護る術を知るために、大会ルールで遊んでみましょうと言う話よ」


 青山が悪そうな笑顔だ。


「これからか?ここじゃあ、大会ルールにならないだろ」


「オフィス街エリアか住宅街エリアを借りたいの?いいわよ。住宅街エリアを貸してあげるわ」


 卯花の頭の上に居座っている白い鳩が別の施設の使用許可を出す。


「お断りします!」


 卯花は必死に抵抗しようと試みるが。


「住宅街エリアの施設を貸していただけるなら、団体戦ルールの方が良いわね。メンバーは私と卯花ちゃんと菫ちゃんと」


「はい、ボクやりたい」


「サラちゃん疲れているでしょ?フィアちゃんの方が良いんだけど」


「ボク、もう大丈夫」


 青山とサラが卯花を無視して話を進める。


 卯花は涙目で、この一度殴らなきゃいけない連中が何を話しているのかを赤坂に聞く。


「団体戦ルールって、何ですか?」


「大会には、個人戦と代表メンバー戦が有るんだけど、代表メンバー戦にも団体戦と集団戦と言うのが有るんだ」


「団体戦と集団戦?」


「集団戦は5人が1パーティとして一緒に戦う。団体戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順番に戦う」

「それで、なんで、人数を4人選ぶのに騒いでいるんです?」


「個人戦は1対1で戦うんだけど、代表メンバー戦は4代表メンバーがいっぺんに戦うバトルロイヤルだな。集団戦なら20人、団体戦なら4人同時に戦う」


「個人戦は分かりますけど、その他のは運しだいになりませんか?」


「青山が言うには、個人戦が個人技能、集団戦が集団戦術、団体戦は捨てる試合や味方する敵、目立たず油断を誘う心理戦など大局的な視点が必要なるらしい。運だけじゃないそうだ」


「よく分かりません。青山副会長は戦うのが好きなんですか?」


「今でこそ女性らしくしているけど、昔は男子に交じって遊んでいた。でも、特別に戦うことが好きと言うわけじゃないと思うよ。生徒会副会長だから学園の不振が気に入らないのかもな」


「赤坂会長と青山副会長は幼馴染なんですか?」


「この学園はエスカレータ式でクラスがずっと一緒だし、魔法使い自体狭い世界だから、青山だけが幼馴染と言う感覚は無いな」


「この学園だと、そうなんですね。学園の不振って、なんですか?」


 卯花は自分の幼馴染を思い出して、少ししたら連絡してみようと心に決めた。


「この学園は結構有名な魔法学校だけど、大会に力を入れてないんだ。新興の魔法学校の方が有力選手を勧誘したりで力を入れている。それに学園の規則が大会向きじゃないからな」


「学園の規則?」


「普通の学校では大会専門のコーチが居て、全校から高校三年と二年が中心の強い連中を選んでチームを作る」


「普通っぽいですね」


「学園は大会専門のコーチが居ないし、上級生が下級生の面倒をみる系統別にチームを作るんだ。だから、中学生高校生が入り混じる」


「それって、強い人達が集まってチームを作っちゃいけないってことですか?」


「ちゃんと、後輩の指導をしろと言われるな。それも勉強だと。儲からない教師になる人が少ないから、慢性的な教師不足を補うためだな」


「指導とチームは別なんじゃありませんか?」


「学園内で対戦するのには、強いチームが突出していない方が色々なチームと対戦しやすいし指導もしやすい。大会チームを作るとそれ用に訓練するから、優秀な上級生が指導から抜けてしまうしな」


「大会を考えていなければ、良いかもしれないですね」


「ルール自体も独自だから、大会は考えていないんだよ。生徒全体の安全と教育を重要視しているんだと思う。その道のスター選手でも目指していなければ、俺は良い規則だと思っているんだけど」


「私も良いと思います」


「そんな学園だから、生徒も大会より自分達の魔法向上に力を入れる人が多い。けど、青山は負けず嫌いでな。戦いたいと言うよりも、大会に出ても強い人を育てたいのだろう」


「なるほど、分かる気もします。けど、それって、大会に出たいってことですよね?中学生が混じるのは良いんですか?」


「青山は、たぶん、大会に出たいわけじゃなく、練習試合ぐらいまでだ。他校に試合を申し込まれても負けが多いからな。あと、18歳以下なら問題無いよ」


「他校から練習試合の申し込みが有るんですか?」


「まあ、正直に言うと、ここの施設が使いたいんだろうな」


「なるほど・・・」



「卯花ちゃん、くじ引きでサラちゃんに決まったわ」


 青山が苦虫を噛みつぶしたようなシブい表情で、卯花に告げた。


「くじ引きまでするなら、私を外してください」


「卯花ちゃんの実験のためじゃない」


「私、実験動物じゃありません」


「ふふふっ、卯花ちゃんにとって、なにが危害を加えるものなのか。ちゃんと把握しないと危ないわよ?」


「それは、分かりますけど。サラさんはちゃんと手加減してくれるんですか?」


「ボクに敬語は要らない。同級生。飽和攻撃と上位妖精の喚起しちゃダメだって」


「サラちゃんは、それでなくとも疲れているんだから、無茶しちゃダメよ」


 残念そうなサラに青山が釘を刺す。


「サラちゃんで良いのかな?私は初心者で弱いんだから、弱い者いじめにならないよう気を付けてね」


「ボクには強いように見えるよ」


 卯花は自分で言っていて情けない注意をするが、サラに分かってもらえない。不安だ。


「赤坂も居るし、私も問題が無ければサポートするから、そんなに不安がらなくても大丈夫よ」


「俺が監視映像で見て、スピーカーで審判するから、少しでも危ないと思ったら止める」


「監視カメラが有るんですか?」


「広いからな、一辺が500mくらい。この平原エリアと同じ大きさだ。監視カメラが所々有るから壊さないように」


「それ、出会えるんですか?」


「魔法使いが居ると妖精が動くだろ。特に契約妖精を召喚している魔法使いの位置は近づけば大体だけど分かるよ。ただ、白井さんは分かりやす過ぎるな」


「分かりやすい?」


「白井さんが居ると妖精が広範囲で変なんだよな。広範囲過ぎて逆に細かい場所が分からないけど、遠くから居る方向が分かる」


「みんなに狙われるじゃないですか」


「そうだな。試合の間くらい押さえられないかな。妖精を集められたんだから、『止まって』とお願いするとか」


 卯花は赤坂に言われた通りに再度「うーん」とか「えーい」とか気合を入れた。


「おおっ、すごい。まるで時間がゆっくり流れているみたいだ。これは怖いぞ。気合を入れ過ぎだな。『見ないで』とちょっと念じるくらいで」


「遊んでないですよね?」


 と、卯花が聞くと赤坂に目を逸らされたが、軽く念じてみる。


「ちょっと違和感が有るくらいで、契約妖精を呼んでいない素の俺達よりも自然だな」


「ちょっと、卯花ちゃんと追いかけっこだと思っていたのに、かくれんぼになるじゃない」


 青山が赤坂に苛立った様子で睨みつけた。


「青山副会長とサラちゃんが嬉々として追い掛けてくるなんて怖すぎます」


「中学新一年生が戻ってくると色々と面倒だから、住宅街エリアに移動して始めよう」



長~~~~~~~い目で見てください。


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