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01-006 問題児登場

09/01 投稿


 学園を裏から出て山道をしばらく登ると、開けた場所に人の気配がしないビルや住宅街が見えてくる。


「なんですか、これ・・・」


「形だけだよ。ドアや窓も無いし、建物の中は適当なんだ。オフィス街エリア、住宅街エリア、平原エリアの対戦用施設。土と火の妖精に作らしたらしい」


「全部魔法で?」


「うん。全部魔法で。笑うしかないだろ。ちゃんと丈夫に出来ているし、壊しても直してくれるんだ。遠くからは森にしか見えないしな」


「これ作った人は大儲けできますね」


「発想が貧困だな。そんなことしなくても儲けられるだろ。あまり近づくと伯様が設置した結界に触れるから危ないぞ。今日はデモンストレーションだから、平原しか使わないけどな」


 赤坂が平原エリアの入り口を指さす。


「ここは人に危害を加える妖精や対魔法使いを想定して訓練する様な施設で、中学高校でこれだけの施設を使えるのは数少ないんだ。土地的にも妖精がすごく多い。うちの学園が世界有数の魔法学校である理由だな」


「この学園って、世界的なんですか」


「他国からも入学してくるし、他国の組織が見学に来るなんて、しょっちゅうだよ」



 卯花が口を開けて呆けているのを、三人が引っ張って平原エリアに到着する。


「そろそろ練習試合が始まるみたいだ。俺達も見学させてもらおう」


 広い平原エリアの結界の中を小さな結界で分割して、その中で対戦するらしい。


 中学一年が小さな結界の外に並んで座っている。


 結界の中では高校らしい男子生徒と女子生徒が二人にらみ合い、開始の合図を待っている。


「男子が菅原さんで、女子が中西さん。ともに高校三年で第一風紀委員の実力者だな」


「男子と女子で、対戦とかするんですか?」


「体力的には男子優勢かも知れないけど、魔法的には女子の方が優秀と言う話も有るくらいだから、区別する時としない時が有るな。最も大きな大会は区別しないな」


「そうですか。女子を応援しようかな」


「特殊な場合を除いて、男の方が悪役にされることが多いよ」


「そうですよね」


 ブザーが鳴り試合が開始される。


 お互いが半歩距離を取ると同時に淡い光が降り注ぐ。


「あれは契約した妖精を召喚しているんだ」


 まずは男子生徒の周りに小さな火が浮かび、女子に向かって弧を描くように飛んでいく。


「あれは契約妖精が喚起した最下級の火妖精で、威力は弱いけど数多く出せるし、相手を追尾できるからけん制によく使われる」


 女子生徒が腕で宙を薙ぐと、砂を巻き込んだ突風が火妖精と男子に向かう。


「あれは契約妖精が喚起した下級の風妖精で、威力はそれなりだけど単発か数発くらいで、直線的に相手に打ち出すだけになる。今回は火妖精を打ち払うためだから、攻撃と言うよりも防御だな」


 男子生徒は余裕をもって風妖精を避け、さっきよりも多くの最下級火妖精を喚起し自分の周りにとどめる。


 女子生徒が最下級風妖精を喚起して男子に向かって打ち出し、男子生徒が保留中の最下級火妖精で迎え撃つ。


 双方の最下級妖精が躍る様にぶつかり合い大半を消滅させるが、抜け出した最下級妖精が相手を襲い、二人とも体の淡い光が明滅する。


「最下級妖精や下級妖精では契約妖精よりも弱いから、契約妖精を維持するための魔力を消費させると言う消耗戦だね」


 赤坂が戦いから目を離し、卯花を見ながら、更に説明を加える。


「今回は女子生徒の方が有利なんだ。相性的に火属性よりも風属性の方が有利だし、彼女の契約妖精は火属性と水属性も上手に使えるし、男子生徒の契約妖精よりも少しだけ上位に位置するみたいだからね」


「可愛いですね」


「可愛い?」


「はい。女子生徒の契約妖精ですけど、すごく素直だと思います」


「ほお・・・。男子生徒の契約妖精は、便宜上妖精と言っているだけで、確か親との契約だったと思う。こういう話は手の内を探る話になるから、大きな声では言えないけどな」


「あ、見てください」


 女子生徒は周りを竜巻の様にして風で護りまがら頭上にさらに水を含む大きな竜巻を掲げ、男子生徒は周りの草原が火の海と化している。


 女子生徒は水を含む大竜巻を男子生徒に向かわせ、男子生徒は更に火力を増して迎え撃つ。


 男子生徒は体の光を大きく明滅させながらどうにか大竜巻に耐えきるが、そこに女子生徒が竜巻をまといながら高速で突っ込み、男子生徒の契約妖精を強制的に送還する。


「男子生徒の消耗した契約妖精を女子生徒の契約妖精で送還したんだ。女子生徒の勝ちだな」


 ブザーが鳴り試合の終わりを告げる。


「どうだ?この学園でも上位に入る二人の魔法は」


 赤坂が卯花に視線を移し、探る様に見つめる。


「魔法はすごいですね。みんな可愛かったし。男子生徒の契約妖精は変でしたけど、女子生徒の契約妖精は楽し気で可愛かったですよ」


 卯花はやっと目を赤坂に向けて、クスクスと笑いながら答える。


「予想以上の感想だな・・・」


 赤坂は恐ろしいものを見たような顔をした。



「赤坂生徒会長、ボクと勝負しよう」


 ショートヘアを揺らしながら、金髪碧眼の美少女が赤坂に向かって駆け込んできた。


「今日のデモンストレーションはスケジュールを組んでいるから、割り込みなんてできない」


 赤坂と青山が渋い顔になり、赤坂がぞんざいに答える。


「なら、青山生徒副会長、ボクと勝負しよう」


「話を聞け。スケジュールを組んでいるからスケジュールに無い試合はできない」


「じゃあ、そこの君、ボクと勝負しよう」


 金髪碧眼美少女は卯花を指す。


「この方は?」


 卯花が困り顔で赤坂に助けを求める。


「サラ・ディエルさんだ。一応は第一生徒会に所属しているけど、武者修行と言って他所に喧嘩を売り歩いている問題児だな」


「ボクは問題児だったの?」


「そこは聞こえるのか・・・」


 赤坂が両手を突っ伏してしまいそうになった。


「サラお姉ちゃん」


 更にかわいい金髪碧眼美少女がサラの元に走ってきて、ペタリと背中に顔をうずめる。


「えーと、こちらがフィア・フレイさんで、第一生徒会所属だけど、ディエルさんを追いかけて一緒にどこかに行ってしまう困った娘さんだ」


 赤坂が天を仰ぐ。


「フィアちゃん、いらっしゃい」


「静お姉ちゃん」


 青山がフィアを呼ぶと、フィアは青山にペタリとくっつく。


「この娘は良い子よ」


「ボクは?」


「フィアちゃんを悪い道に巻き込んじゃダメよ」


「えーっ」


「サラお姉ちゃんを、いじめちゃダメなの」


 青山とサラ、フィアがかしましい。


「はじめまして、今度入学しました高校一年一組の白井卯花です。よろしくお願いします」


「一年一組?ボクと同じクラス。いつのまに?」


「昨日、クラスでも入学の挨拶をしました。いなかったんですか?」


「昨日?集まったの?ボクは知らないよ?」


「各所属の委員会やクラブでは、一年一組の集合を案内しているけど、ディエルさんが生徒会に来ないから知ってるはず無いだろ」


 赤坂が憮然とサラに文句をつける。


「ひどい。ボクだけ仲間外れ」


「ひどいのはディエルさんだ。だから、朝一回は生徒会に顔を出せって言っているだろ」


 赤坂とサラの会話が成り立っていない。


「あれ?この娘も生徒会に入ったの?ボクは知らないけど」


 サラが菫を見つめながら、首をかしげる。


「中学三年一組の音無菫さんだ。もう、2年も生徒会だよ」


「・・・菫ちゃん?ボクの知っている菫ちゃんと違う気がする」


「ああ、音無さんは白井さんと契約したんだ。俺でさえ別人に見えたからな」


「菫ちゃん、ボクと勝負しよう」


「そこに戻るのか・・・ディエルさんは、今日、勝負禁止」


「えーっ、なんで。ボクの楽しみなのに」


「もしかして、今日ここに来て、強そうな人に片っ端から勝負を挑んだのか?」


「うん。ボクの楽しみ。ここで暴れられるなんて、なかなかできないから」


「誰も勝負受けてくれなかっただろ?」


「うん」


「だから、今日は勝負禁止だ」


「そんな・・・。ボク、お腹が空いた」


 サラのお腹がグーッと鳴り、お腹を押さえる。


「なんで、そこまで欲望のままなんだ。まだ、お昼には早すぎるだろ」


「赤坂、ここは私が見ているから、お昼に行ってきなさい」


 青山が何か思いついたみたいだ。


「この時間に?」


「ここの使用スケジュールで、お昼休みの時間は空いているでしょ。お昼休みの時間に借りて、ちょっと遊んであげないさい」


「そうか。でも、それでディエルさんが大人しくなるのかな・・・」


「ここで一回暴れれば、このまま他の人達に迷惑を掛けるよりも、マシになるんじゃないかしら。赤坂生徒会長」


「運営委員会の人に使用可能か確認してみる」


 赤坂が青山をにらんだ後、近くの腕章の人のところへ走っていく。


「大丈夫みたいだ。ディエルさんと、白井さん音無さんも食事に行こう。フレイさんも」


「私一人居残りで、全員行っちゃうの?」


「俺の魔法はともかく、ディエルさんの魔法は見た方が良いからな。それに俺一人でディエルさんを連れて行けると思えない」


「そうね。いってらっしゃい。何かあったら連絡するわ」



「ボクは購買で、おにぎり買ってくる」


「食堂で購買のおにぎり喰うのか。まあ、この時間だと席がガラガラだから大丈夫か。ちゃんと食堂に来いよ」


 サラがさっさと購買に向かい、フィアがキョロキョロついて行くか迷っている。


「フィア・フレイさんね。食堂のメニューを食べるなら、私達と待っていましょ。ちゃんと食堂に来るはずだから」


「フィアで良いの。卯花お姉ちゃん?」


「うん。私も『フィアちゃん』で良いかな?」


─━お姉ちゃんが「さん」付けで呼ぶのは、なんだか冷たいよね。


「卯花お姉ちゃん」


 フィアが卯花にペタリとくっつく。


─━なに、この娘可愛い!お持ち帰りしたい!えっ?


 卯花の背後から闇よりも深くどす黒いオーラと、地獄の門が開くような重低音がゴゴゴゴッと鳴り響く。


 卯花は恐怖をどうにか抑えて後ろを振り向くと、菫がニコニコと笑っている。


─━えーと、気にしちゃダメだ!


「さ、さあ、お昼にしましょう」


「食券買って、早く食べよう。おすすめは、男なら日替わり定食だけど、女子だとレディースランチなのかな?」


 空気を読まない赤坂が、食券を買いながら、おすすめを教えてくれた。


 女子3人はレディースランチになり、カウンターで受け取る。


 重箱の様な入れ物を区切って、俵型に押されたご飯と色々なお惣菜が入っている。おいしそうだ。


 赤坂が既に席を抑え、卯花達を手招きすると、サラがレジ袋をおにぎりで膨らませ駆け込んでくる。


「しかし、ディエルさんは米が好きだな。試合前にそんなに食べて大丈夫か?」


「ボクは、よく食べよく運動するのが一番だよ」


「ディエルさんにとっては、試合と言うよりも遊ぶ感じだからか」



長~~~~~い目で見てください。


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