01-005 服が少し恥ずかしい
09/01 投稿
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サテナを背負って歩く苦行から解放された卯花は、菫の案内で女子寮にたどり着いた。
─━まずは寮監さんに挨拶して、荷ほどきしなくちゃ。それからお風呂に入って夕食かな。
「寮監さんに挨拶をしたいんだけど。寮監さんの部屋はどっち?」
卯花は女子寮の玄関に入って、見慣れぬ廊下を見まわす。
「あの、寮母さんの部屋は右の突き当りですけど、この時間だと晩御飯の支度をしているから、右の食堂に居るはずです」
菫が食堂と書いてあるプレートが張り付けられた部屋に入り、中に居た恰幅の良いおばさんに何かを告げている。
「あんたが白井卯花ちゃんね。これからよろしく」
─━なるほど、「寮母さん」の方が合っている感じね。
「白井卯花です。よろしくお願いします」
「一組の人は一人部屋だし、学年が違って相部屋なんてしないのにと、思っていたけど、菫ちゃんと知り合いだったのね」
「えっ?」
卯花が菫を見ると。
「あの、理事長の指示らしいです。私も一人が寂しかったから・・・」
菫はちょっと嬉しそう。
─━身を護れない者同士で護れってことかな。私が魔法関係に詳しくないから、嫌がらない人選でサポートかも。
「はあ、まあ。菫ちゃんも改めて、よろしくね。荷物は届いていますか?」
卯花は日本人スマイルでやり過ごす。
「あの、昨日届いたから部屋に運んで、段ボールのままですけどラベルで整理しましたから、クローゼットとかに移すだけにしてあります」
「菫ちゃん一人で?大変だったでしょ」
「あの、私、こう見えても力持ちですから」
「女子寮の案内を見れば大体の生活規則は分かるし、後は菫ちゃんに聞けばいいわ。勉強頑張ってね」
寮母さんが菫を優しい目で見ながら簡単に寮の案内をする。
「はい、分かりました」
卯花は菫の頑張りのおかげで時間に余裕ができ、菫とお風呂に行くことにする。
「菫ちゃんのおかげで汗をかかなくて済んじゃったけど、お風呂に案内してもらえるかな」
「あの、一組はこの時間にお風呂は無理です。20時以降じゃないと一般生徒の迷惑になります」
「そうなの?一組ってどういう扱いなの?」
「あの、授業免除とかの特別扱いで偏見と言うのも有りますけど、どうしても一組関係で超常現象が多いから畏怖されています」
「それはそうよね。こんなところから溝ができているのね。菫ちゃんなんて、人畜無害なのにね」
「あの、一組に所属してますし、さっきも話しましたけど、一般生徒には突然変な行動をする女子と思われている気がします」
「妖精にからかわれるってヤツね。菫ちゃんも大変ね」
「あの、卯花先輩も一組ですから、同じです」
「私は普通の中学生だったわよ」
ちなみに、卯花は中学で、ボーッと何かを見ている変な女子と言われていた。
夕食やお風呂を済ませて早々にベッドに入るが、二人とも高揚しているのか眠れない。
結局、遅くまでおしゃべりをして、菫が卯花の勉強をサポートする言う話になる。なさけない。
「お、重い」
卯花は自分になにかが乗っかっている重さの息苦しさから目を覚ます。
卯花が首を動かして自分の掛布団を見ると、菫が気持ち良さそうに卯花を枕にして寝ている。
「菫ちゃん、起きて」
卯花が菫に何事か聞くと、菫は朝起きて卯花を起こそうとしたが、なかなか起きず、気持ち良さそうな寝顔を見ていたら自分もまた寝てしまったらしい。
卯花と菫は朝早く伯の家に寄り、学園の第一生徒会室のドアを開く。
「「おはようございます」」
─━朝早くから菫ちゃんの枕にされるし、朝から修行で疲れたし、これが毎日なの?
卯花は元気いっぱいの菫を見ながら、愚痴をこぼす。
「おう、おはよう」
「あら、早いわね。おはよう」
赤坂生徒会長と青山生徒副会長が朝から忙しそうに書類などを書いている。
赤坂が自分の書いた書類を青山に手渡し。
「中学の新一年生が入って来て、一組関係の新歓をするから、この時期は大変なんだ」
「何か手伝えることは有りますか?」
「いや、新歓用の委員会が有って、生徒会は外部施設を借りる時の学園の手伝いが大半だから、俺達の仕事は終わりみたいなものだ」
赤坂がずんずんとこちらに迫ってきて。
「なにがあった。白井さんも有り得ないくらい変わったけど、音無さんは何かと契約しているだろ」
赤坂の鼻息が荒い。
「あの、卯花先輩と契約しました」
菫が卯花の後ろに逃げた。
「契約できた?なぜ?どうやって?」
赤坂が卯花をにらみつける。
「伯さんいわく、相性が良いそうです」
「相性が良い?この変なのと?伯様が契約を助けてくれたのか?」
─━変なのって言われた!
「そうです。あと、伯さんのところで二人とも毎日修行するように言われました」
卯花は頬を膨らます。
「なんだと、伯様は修行依頼を全部無視しているのにか?二人とも?毎日?」
赤坂が更に興奮して詰め寄った。
「止めなさい。菫ちゃんが怖がっているじゃない」
青山が丸めた書類で、赤坂の後頭部を綺麗に殴る。
「ああ、悪い。ただ、一度契約を確認させてほしい。伯様の裏山の施設を借りていて、これから新歓の練習試合を見に行くところなんだ。魔法練習服に着替えてくれないか」
「あの、私、練習服を持っていません」
菫は卯花の後ろに張り付くようにして隠れたまま返事をする。
「え、あ、そうか・・・。これから絶対に必要だろ?今日はお金が無いか?」
赤坂は表面的に落ち着いたけど、全然懲りていないのが丸分かりだ。
「あの、お金は有ります。卯花先輩、お金有りますか?卯花先輩も練習服を持っていた方が良いですから、買いに行きませんか」
「うん。寮暮らしで必要な物を買うためにお金は多めに持っているし、必要なら持っていた方が良いから買いに行きましょう」
卯花はお財布の中身を思い出しながら、一緒に買った方が色々と良いだろうと結論付ける。
「悪いな。ただ、魔法の練習試合は白井さんも見た方が良いよ。色々な魔法が見れるし、他の人のレベルも見れる。白井さんの周りは特殊過ぎる人しか居ないから、他の人の魔法は参考になるよ」
「そうですね。たぶんですけど。私、魔法を普通に使っているのを見たことが無いですから」
「・・・なぜ、それで契約ができる。やっぱり変だ」
学園の購買は、近くに商店が無いためかなり大きく、卯花はキョロキョロと売っている物を探す。
「練習服って、普通の店で売って平気なの?」
「あの、普通のスポーツ用品と変わりません」
「そうなの?」
「あの、妖精の護身はバリアと言うよりも肉体強化で、身体能力が上がりますけど身に付けている物が対象になりません。だから、制服とかだとすぐに破れちゃうんです。鎧を着こむわけにはいかないから、体にフィットした丈夫な生地なだけです」
「それだと、練習服もすぐにダメになっちゃいそうだけど?」
「あの、一着一回しか着ない人も居るみたいです。練習服は生地が丈夫で安い服と言う意味だと思ってください」
「結構な散財になりそうね」
卯花が顔をしかめ、菫がクスクスと笑う。
「あの、生徒会の人間は、なにか有った時に積極的に介入する場合も有って、制服の下に下着代わりに練習服を着ている人が多いんです」
「じゃあ、可愛いのを数枚買った方が良いのかな?」
「あの、私はそのつもりですけど、卯花先輩は妖精が呼べないから・・・」
「そっか、着てもしょうがないのか」
「あの、安くて種類が有るから、気に入ればで良いと思います。ただ、魔法の練習するために一着は持っていた方が良いです」
結局、「あれが可愛い」「これが良い」と数枚ずつ買うことにしたが、二人ともに幼い体躯のコンプレックスから胸のあたりをパフパフと悲し気に触る。
「ただいま帰りました」
卯花達は生徒会室で待つ赤坂の元に帰ると。
「あら、よく似合っていて可愛いわ」
「おう、遅かっ。痛いよ」
赤坂が青山に叩かれた。
「念のため、学園配給の『護身冠』を渡しておく。妖精の護身が出来ていない場合でも一回だけ護身できるから、魔法を使う時には身に付けるようにな」
赤坂が卯花と菫に銀細工のサークレットを渡す。
「しかし、白井さんまで着替えなくても良いだろ?」
「菫ちゃん一人だけだと、ちょっと恥ずかしいですから」
「それもそうか。俺も制服を脱いだ方が良いかな」
「赤坂が脱いだら、私まで脱がなきゃいけなくなるじゃない」
青山が嫌そうに赤坂をにらむ。
「そうかな?気にすることか?さて、裏山の施設に行こう」
長~~~~い目で見てください。