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01-002 魔法学園へ入学

09/01 投稿


 卯花が咄嗟に身を守ろうと、左手で顔を守り右手を突き出す。

 が、何も起こらない。


─━ん?なに?気のせいとかじゃなかったと思うのに?


 卯花が左手を顔の前から下げて、前を見ると。


「あなた、何なの?偵察か何かかと思えば動きは素人だし、見かけないくらい強そうなのに逃げ回るし」


 先ほどの女性が左手で光る犬の首根っこを押さえながら、卯花の様子をうかがっている。


「助かった。あ、助けていただいて、ありがとうございます」


 卯花は一気に気が抜けて、へたり込みそうになりながら、女性に頭を下げる。


「あの、その光っているものって、何なんですか?」


 卯花は女性に首根っこを押さえつけられ突っ伏しながらも暴れようとしている光る犬を見ながら、思わず質問する。


「え?これは通称オルトロスね。あなたの言う光るものは妖精のことじゃないかしら・・・」


 女性が驚いた表情で卯花に説明し、何か考えている。


「妖精?」


─━え?私って、妖精が見える不思議ちゃんだったの!


 卯花が地味にショックを受けていると。


「ああっ!あなた、白井卯花ね。そういえば面影が有るわ。巻き込んじゃったみたい。ごめんね」


 女性が何か納得顔で卯花の名前を口に出す。


「え?はい、私は白井卯花です。なんで私のことを知っているんですか?」


 卯花は驚きに目を見張りながら、妖精を相手取る得体の知れない女性に警戒心を感じていると。


 女性は「直接会うつもりなかったんだけど」と卯花に聞こえないくらいの小声でつぶやき。


「昔、ちょっと会ったことが有るの。ちょうど良かった。卯花は妖精が見えるのよね?」


 女性の手によってオルトロスが光の粒になって消えていき、まとっていた淡い光が消えた女性がポンポンと手を打ち鳴らしながら、卯花に質問してくる。


「はい。妖精ですか?小さい頃から見えて困っているんです」


 卯花は警戒心など吹っ飛び、長年自分だけが見えたことを共有出来ることに喜びを隠せない。


「妖精が見えると言うことは、妖精に願って魔法が使えるの」


 女性がとんでもないことを言い出した。


「・・・魔法?」


 卯花は「なに言ってるの、この人」と混乱する頭で声を絞り出す。


「あー、細かい説明は今できないわ。わるいわね。重要な点だけ聞いてちょうだい」


 女性は思いめぐらすようにしながら、説明を続ける。


「妖精が見えるのに、その知識や力の使い方を知らないのは、とても危険なのよ」


「危険・・・」


 卯花はよく分からないけれど、確かに危険だろうと思う。


「でね。この世界では魔法使いが実在すると思われていないけれど、魔法使いが集まってお互いを守ったり、情報を共有したりしている組織や学校が有るわけ」


 女性は早口で説明する。たぶん、時間が無いのだろう。


「卯花は清浄学園に入学するのが良いと思う。学園には一般の人間が多く居るけど、魔法使いも結構居るから、卯花の面倒をみてくれるわ」


「清浄学園ですか?有名校ですよね?私の学力では無理だと思うんですけど・・・。しかも私立でお金が・・・」


 卯花は自虐的な気持ちになりかかりながら、困惑を説明する。


「大丈夫。私達が推薦しておくし、学費は免除されるはずよ」


 女性が当たり前のように信じられないことを言い出す。


「え、なんでそこまでしてくれるんですか?」


 卯花にとっては条件が良過ぎてかえって不気味だ。


「私が卯花の学費を出すわけじゃないわよ。知識の無い魔法使いが居ると危険だから、学園に推薦しておくだけ。そのための学園でも有るから、面倒をみてくれるわ」


 女性の説明だと、魔法使い達の社会システムらしい。


「・・・」


 卯花は何かの責任も付いて来るのだろうかなど、情報不足で何とも返事をしようが無い。


「別に騙したりしないから大丈夫よ。そのままだと危険だから、ちゃんと学園で色々と勉強してね」


 女性が優しい笑顔で応援してくれる。


「はい」


 卯花は他に選択も無いので、受け入れることにした。


「じゃあ、頑張ってね。あ、今日のことは誰にも言わないでね。お願い」


 女性は卯花が聞き入れたことに少し安堵したような表情になる。


 女性がの前に手をかざすと光の束が目の前に現れ、その光の束に吸い込まれるように入っていく。


「え?あ、ちょっと待ってください」


 卯花は女性が光の束の中に消えることを悟り、もう少し説明を受けたいとお願いをする。


「ごめんね。急がないといけないのよ。学園で色々説明してもらえるから、今日はここまでね」


 女性の優しい声だけが後に残り、光の束と共に女性が消えてしまう。


「名前も聞けなかった・・・」




 春。


 何処の組織の差し金か、卯花は決められたレールの上を走る様に清浄学園に入学することとなった。


─━って、言うか。あの人に説明されなくても強制的に清浄学園へ入学させられたんじゃない?

 あの日以来、全てが口裏を合わせた様に、卯花を清浄学園入学へと導かれる。


─━中学担任も当然の様に清浄学園入学へと動くし、理由を聞いても教えてくれないし、お母さんを説得しちゃうし。




 卯花は納得がいかない気持ちと新生活への不安と期待で緊張しながら学園の職員室に向かう。


 清浄学園は中学と高校がほぼ一貫で高校の入学式が無いらしい。卯花は新学年に転入みたいな扱いだ。


─━転校生みたいな感じ?嫌だな。変な学校よね。しかも寮生活。私、ちゃんと生きていけるのかな。


 少し古めかしい校舎の中を職員室をキョロキョロ探していると、少し先の部屋から生徒がお辞儀をしながら出てくる。


 卯花は部屋のプレートを確認し職員室を見つけると、ちょっと深呼吸して職員室のドアをノックして開く。


 職員室の中には10数名の教師達が座っていて、卯花は一番ドアに近い年配の女性に話しかけることにする。


「すいません。今度高校に入学した白井卯花です」


「ああ、新入生なの?高校一年の何組かしら?」


 女性教師は顔を上げて卯花を観察する。


「はい。一年一組と案内にありました」


 卯花が答えると、女性教師の表情が引きつり。


「一組ですか。それならば、ここを出て、左隣の第一職員室へお願いします」


「こことは別に職員室が有るのですか?」


「はい。こちらは一般職員室になります。一組の方は第一職員室です」


「そうですか。分かりました。ありがとうございます」


 卯花は女性教師の態度が急変したことに困惑しながらも、丁寧にお辞儀をして職員室を出る。


─━なに?一組って、魔法使い用なのかな?でも、あの急変ぶりは何なの?


 卯花はただならぬ雰囲気に魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿に来てしまったんじゃないかと、更なる不安を懐きつつ、第一職員室のドアをノックして開く。


「すいません。今度高校に入学した白井卯花です」


「おう、来たか。影山だ。まっすぐこっちの職員室に来いよ。嫌な顔されただろ?」


 影山と名乗る20歳前にしか見えない男は、だらしなく椅子の背もたれに体を預け、卯花をヒョイヒョイと手で招く。


─━態度が悪いな。先生なのかな?


「嫌な顔はされませんでしたけど。なんで迷ったこと知っているんですか?」


 卯花は精一杯の愛想笑いで、影山に話しかけ。


「ん?学園の門を超えた時から知っていたからな」


─━ストーカーだった!


「え、監視カメラですか?」


 卯花は思わず引いてしまう体と引きつった笑顔を何とか押さえつけ。


「いや、この学園は立地が特殊で妖精が集まるんだ。白井が来た途端に妖精が騒いでな。最初は災害でも起きたのかと思ったよ。教師としては対応しないとマズいだろ」


─━先生だったのね。それにしても若い。


「妖精・・・一組って、魔法使いのクラスなんですね」


 影山が明らかに嫌そうな表情になり、ため息を吐く。


「そこからか。そう、一、二、三年の一組以外は一般人だから魔法関係がバレない様にしろよ。白井は親戚にも魔法関係者が居ないんだよな?」


「はい。魔法って、何なのかも知りません」


─━この学園に来れば、面倒をみて説明してくれるはずじゃないの?


 卯花は愛想笑いも無駄な気がして、少し不貞腐れる様に何も知らないことを伝える。


「本当に白井は妖精が見えるだけなのか?」


 影山が初めて焦点を合わせて、卯花をいぶかしむ様に見つめ。


「はい。つい最近まで何か光るものが漂っているなとしか」


「一応教えておくと、妖精と言うのは最も一般的な言い方だ。流派によっては『神』とか『精霊』とか『悪魔』とか『悪霊』とか色々な言い方をする。流派によっては名称を大事にするから、へたに拘ると面倒になるから気を付けるようにな」


「神に悪魔ですか・・・」


 卯花は「なにそれ、大袈裟すぎない」と顔をしかめて。


「まあ、自分に都合が良ければ神で、都合が悪ければ悪魔みたいな話だから、深く考えなくて良いよ。いたずら好きで気ままだから、妖精が一般的になっているだけだ」


─━うん。言ってはいけないことを、サラリと言っているのだけは分かった。こういう人間になっちゃいけない。


「なるほど、面倒になりそうですね」


「しかし、見えるだけじゃあ、危ないな。白井は第一生徒会に所属してもらって、第一生徒会が色々教えてくれるよ」


 影山は卯花の意思を無視して、説明不足な説明をする。


「え?新入学でいきなり生徒会に入るんですか?それに先生が教えてくれるんじゃないんですか?」

「魔法使いの流派や特性が違うと、一般知識はともかく専門知識になると教えることが難しいんだ。魔法使いにとって学園は教育機関と言うよりも、共助機関でしかないから、クラスとは別に集まってお互いを助け合っていて、第一生徒会はその一つなんだよ」


「それで私は第一生徒会なんですか。もしかして、一般生徒会も有るんですか?」


 卯花は影山の責任放棄に近い言い草に呆れ、同じ学園の中に二つの学校が存在している状態なのだと理解し始めた。


「そうだよ。第一生徒会は優秀だけど、ちょっと変わったヤツが集まっている。白井もかなり変わっているからな」


 影山が自然に卯花をけなすが、悪意は無いらしい。


「分かりました」


 卯花は思わず、少し頬を膨らませて返事をする。


「あはは、むくれるなよ。困った時には相談に乗るから」


─━先生じゃなくて、学園内の面倒をみているお兄さんみたいな感じなんだ。それなら、良い人かも。


「よろしくお願いします」


「ああ。さてと、教室に行こうか。さっきも言ったようにクラスはあまり関係無いんだけど、紹介くらいはしないとな」


 影山が椅子の背もたれでしわくちゃになった上着を着込み。さっさと職員室から出て行ってしまう。


「え?クラスが関係無いって、授業はどうするんですか?」


 卯花は影山を慌てて追いかけながら、「また、何を言い出すんだ。この人」と混乱する。


「うん?白井は授業を受けたいのか?一組に授業は無いぞ。他の連中は授業中に集まって魔法の研究とかしているだけだし、テスト前に自分でちょっと勉強するくらいしかしない」


「ここ、学校ですよね?それで勉強が付いていけるんですか?」


「一組の成績は学園内トップだよ。だから、授業が無い」


「自習だけでトップクラスの成績なんて、私には無理です」


─━授業を受けてもトップクラスなんて無理なのに。


「他のクラスで授業を受けられるようにしても良いけど、第一生徒会で勉強も見てもらった方が良いかな・・・」


「そんな・・・」


─━魔法を知らない。勉強できない。私、完全に足手まといじゃない。


 卯花はどう考えても歓迎される事の無い自分の状況で途方に暮れる。


「流石に授業はしてくれないだろうけど、分からないことを質問するくらいなら問題無いと思うぞ。それに連中なら下手な教師よりもちゃんと教えてくれるはずだ」


─━魔法使いって、チートなの?一般人の私だけ、逆チート?泣きたくなってきた・・・


「そんな顔するなって。第一生徒会長の赤坂に相談してみろ。あいつは面倒見が良いから頼っても大丈夫だ。少し昔のになるけど授業の録画が有るから、最終手段はそれで勉強しろ」


「そうなんですか?良かった」


 卯花は希望が見えたため、表情が明るくなる。


 授業の録画が有るなら、少しくらい内容が違っていても、好きな順番で分からなければ繰り返し見れるし要らない部分はとばせるから、むしろ効率が良さそうだ。


「おう。ただ、第一生徒会長の赤坂は、なんと言うか、かまい過ぎて猫に嫌われるタイプと言うか。しかも、凝り過ぎるタイプと言うか。その分、色々と詳しいよ」


「今の私には有り難いかもしれませんね」


 卯花がクスリと笑みをこぼす。


「さて、この教室だ」


 影山が教室のドアを勢いよく開ける。



長~い目で見てください。


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