お前、マジでクソッタレだよ・・・・・・。
俺は四宮がICの生徒である事実を知らされ、暫くの間途方に暮れていた。
ようやくそのショックが和らいで、時期は既にゴールデンウィーク終盤を迎えていた。
おまけにあの日以来、彼女とまともに会話――はおろか挨拶さえ――も交わせていない。
あのときこそ大きな進歩だと思ったものの、勘違いも甚だしいのなんの。
あれから俺にとって大きな変化はないと言っていい。
厳密に言えば小さな変化はいくつかある。
その一つに、ここ最近ときどきではあるけれど俺たちのグループに鷲田がくっついてくるようになったこと。
今日も鷲田と俺たちは行動を共にしている。
がっつりどっぷりオタ充しまくっているゴールデンウィークも残すところあと二日。
もし今の俺にリア充スペックがバリバリに備わっていたとして、更にかなりイケメンで、四宮がICの生徒でなかったのなら間違いなくデートの一つくらい誘っていたのに・・・・・・
と、自分でもよくわからないかなり意味不明な妄想を繰り広げながらオタク集団の最後尾に連り、てくてくと歩いているところだ。
今日、五月五日はDO5の面々プラス鷲田という顔ぶれで最近グランドオープンしたばかりの〝ありありTown〟という名のサブカル専門ショップを訪れている。
ちなみにその名の由来は〝アニメもゲームも漫画もアイドルも、コスプレグッズもありありな町〟というところからきているとかいないとか、なんとかかんとか。
「なあ、そろそろ飯にしようぜ?」
俺はだれにともなく提案する。
午後二時を回って開店時間から未だに一度の休憩もなく歩き続けていたのだから俺のささやかな体力もそろそろ限界が差し迫っていた。
「それもそうだな・・・・・・。ちょうどフードコーナーもそこだし、休憩するか・・・・・・」
誠ノ介が改めて提案し、ほかのメンツにも確認を取る。
残る四人も頷き合っている。そしてやっとこさ念願叶って休憩時間となった。
早速フードコーナーへと向かうとそこにはアニメや特撮モノのキャラクターのコスプレをしている店員の姿がちらほら――ほかのフロアにもそこそこいたのだが――見受けられ、一騎と鷲田のテンションがより一層高くなっている。
六人がそれぞれ二つのテーブルに腰を下ろしたとき、一騎が途轍もなくだらしなく口許を弛めながら言った。
「ギガピンクのコスしてる娘、可愛いなあ・・・・・・」
説明しよう!
ギガピンクとは、戦隊モノの〝電子戦隊ギガレンジャー〟という小さな子供から大きな子供まで幅広い人気を獲得した早朝の子供向け番組の中に登場する戦隊五人のうちの紅一点にして、変身前の名を桃川咲桜という登場人物のことであり、身長百六十五センチのすらりとした細身に黒髪ロングで清楚さの中に芯の強さを窺わせる雰囲気を持っている空手の達人で、まさに闘うお姉さんなのだ。
・・・・・・センキュー!
なんつって。
要するに一騎が可愛いと言っている――先日中頃に熾烈な口論(笑)を繰り広げたウ○コ女から完全にウ○コ要素を取り払って、ふんだんに可愛さをプラスさせたかのような感じでそれでも尚――ギャル丸出しの茶髪の小柄な彼女とは正反対だと思う。
絶対にそうだ。
ぶっちゃけどうでもいいことではあるけれど、四宮に黒いウィッグでも装着してコスプレさせたら俺的には文句なしにピッタリだと思う。
けれど今回、一騎はコスプレ云々といった話をしているわけではないから、もちろんここは海のように寛大な心とちょっぴりアハハな心持ちで四宮のコス姿を想像してニヤけつつ、口を挟むことなく黙っておくことにする。
「一騎くんって、あんな風な人がタイプなの?」
「ん? ああ、たしかに系統的に言えばそうかもしんねえなあ・・・・・・」
一騎が気色悪いレベルでデレながら件の店員の姿を眺めている――俺だって他人に言えた義理じゃないけれど――そんなとき、お待ちかねのラーメンが湯気を立てながら目の前に運ばれてきた。
「先に食ってていいぞ?」
と、俺の注文の品に気付いたらしい誠ノ介がスマホをいじりながら言った。
よく見ると、良太は既にカレーに手をつけているところだった。
「ああ、じゃあ。いただきまーす・・・・・・」
手を合わせた後に割り箸を割ると、それは左右対称に綺麗に割れた。
ここでいつもの俺ならば、今日はいいことあるかも、なんて言っているところだが、今日ばかりはそんな気になれず、ただ目の前でひたすらカレーを貪っている良太の様子が気になって仕方ない。
彼は今日ずっと心ここにあらずといった様子で、なにを言っても上の空の状態な上に、珍しくカレーを口にしていることも気になった。
カレーは良太の中学時代の恋人だった女の大好物で、昔はよく二人揃ってカレーばかりを食べているところを何度となく目にしたことはあったのだけれど、良太は彼女と別れてからは一度たりと俺たちの前でカレーを食べなくなったのに、今日に限ってこれなのだ。
「良太? 具合でも悪いんか? それとも、なんかあったんか?」
俺は意を決して訊ねてみるけれど、返ってきた言葉は彼らしくない非常に素っ気ないものだった。
「なんもねえし、別にんなこともねえって。いちいち気にすんなよ・・・・・・」
そんな返答に思わずカチンときてしまった。
「んなこたぁねえってことねえだろ? お前さ、今日おかしいって。それに、気にすんなって言われたってなあ・・・・・・」
そこまで言いかけたとき、ジーンズのポケットの俺のスマホから着信音が聞こえきた。
「鳴ってんぞ?」
俺はこの状況で確認する気になどなれず、無視しようとしたけれど、誠ノ介がそうさせてはくれなかった。
彼は自分のスマホを無言で指差し、その指で今度は俺の方を示した。
どうやら良太はそれに気が付いていないらしい。
「確認しなくていいんか?」
良太はまたも素っ気なく訊ねてくる。
「今から見るっつーの・・・・・・」
と言いながら乱暴に自分のスマホをポケットから引っ張り出す。
着信は誠ノ介からのものだったため、彼に視線を向けると、彼は無言でひとつ頷いた。
誠ノ介は今日の良太のテンションの低さになにかしらの心当たりがあるらしい。
スマホに視線を戻して新着メールを確認してみると、件名には〝要確認〟と記されていて、本文の欄には〝おそらく良太の悩みの原因はこれじゃないかと思う。〟とある。
更にその下段にはツイーターという無料のSNSサイトのURLが転載されている。
URLをタップしてサイトに接続して一、二秒後に表示されたのは一人のアイドルのアカウントだった。
そしてその名前を目にした瞬間、思わず絶句してしまった。
そこに記載されているアカウント名には〝Cuties@井内倫佳〟とあるのだ。
そのアイコンは少しだけ大人びた雰囲気ではあるものの紛れもなく俺たちがよく知っている良太の元彼女である井内倫佳の画像だった。
彼女が発信した最新の呟きはほんの一時間ほど前のもので、
『今日の十五時から、ありありTown三階にて、Cutiesの握手会・サイン会があります。みなさん、ぜひぜひ会いにきてください』
という内容だった。
それをスクリーンショットして、データフォルダへと保存した。
良太はきっとこれかそれ以前の同じような内容のものをなにかの弾み――おそらくフォロワーの拡散かなにか――で目にしたのだろう。
それを確認するためにも、ここ最近全くログインしていなかった自前のアカウントに接続し直して彼が使用しているアカウントのタイムラインを覗いてみる。
予想はズバリ的中した。
彼の更新は昨夜の十一時で止まっている。
『明日、どうしよう・・・・・・。ダチとの約束もあるけど。もしあいつと偶然にでも会っちまったりしたらと思うと、正直恐い・・・・・・。あいつとのことは、俺の中でまだ解決できてない問題だし・・・・・・。でも、約束は約束だし、破りたくない。どうしたらいいのかわからん・・・・・・。いろいろ起こりすぎてパニクってるわ』
――馬鹿なやつだな・・・・・・。一人で抱え込みやがって! クソッタレ!
「良太よお・・・・・・。お前、マジでクソッタレだよ・・・・・・。悩んでんだったら言えよな!?」
もう周りの客のことなんて頭から完全にすっ飛ばして叫んでいた。
俺の声に反応するようにして良太の顔が上がる。
「あ? お前、急になに言ってんだ?」
良太は怪訝そうに訊ね返してくる。
「お前が悩んでんのは、これが原因なんだろうが」
彼の目の前に先ほど保存したばかりの画面を表示させた端末をかざす。
「な、なんだよそれ? ・・・・・・お、俺は、別にんなもん見てねえし、知らねえぞ?」
「バックレんじゃねえぞ? だったらこれはどういう意味なんだよ?」
言いながら良太自身のツイート画面を表示させて再び彼の眼前に突き付ける。
「じゃあ、お前が言うあいつってのは、だれだよ? お前の中で解決できてない問題ってのは、倫佳とのこと以外になにがあんだよ? 俺らには言えねえかよ? 頼りねえんか?」
彼は観念したように深く息を吐いて、口許を歪めてから言った。
「どうしていいかわかんなかったんだよ! お前らには迷惑かけるわけにいかねえし、あいつに会ったりしたらって考えると恐いけど、でも約束はあるし・・・・・・。それに、あいつがどうしてんのかも、正直気になるしで、ごちゃごちゃんなっちまったんだよ・・・・・・」
これは最早、完全なメンタルデフレスパイラルだ。
「んで? お前は今まで一人でうじうじ抱え込んで悩んでたってのか?」
「るせぇ!」
俺は思わず嘆息してしまう。
「でもよお、おまえはやっぱ、答え出すしかねえんじゃねえの? ・・・・・・ってか、自分でもう殆ど答え出しちまってんじゃねえか」
良太は目を丸くしている。
さも、どう言う意味だよ、と言いだけな眼差しと表情。
「昨日のお前はたしかに答え出せずに一人で悩んでたんだろうさ。今も悩んでることには悩んでる。でも、お前は今日、今、ここにこうやって来てんじゃねえか。ここにいんだろ? ってことは少なくとも俺たちと一緒に行動するっていう答えは出てるわけだろ? 残るは倫佳に会うか会わねえかってことだけじゃん? ってか、ここまで来ちまっや以上は、もう会うしかなくねえか? そりゃあ、ビビっちまうくれえ恐いかもしんねえさ。会ってなに言われっかわかったもんじゃねえしな? でも、今でもあいつのことが好きなんだろ?」
そう言うと良太は無言で苦笑混じりに頷いた。
――とことん不器用なやつだな・・・・・・。
俺だってとても他人に、不器用なやつだ、なんて言えたもんじゃないことは充分すぎるくらいに理解しているつもりでいるけれど、それでもそう思わずにはいられないほどのやつらばかりがこのグループには勢揃いしていると言っていい。
「だったら行こうぜ? 行って決着、着けちまおうぜ? そんでゆっくり、今後どうすっか決めりゃあ済む話だろ?」
俺の問いかけにその場の全員が笑顔で頷いた。
それから急ピッチで昼食を平らげ、目的のフロアへと向かうために立ち上がった。
俺はカウンターに一万円札を叩きつけるようにして置くと釣り銭を受け取る時間ももどかしく思えて五人の後を追ってそのままエレベーターに乗り込んだ。




