そして、改めましてDO5です!
俺たちは鷲田に連れられてスタイリストの卵たちが集うという教室へと向かって歩いた。
そこでは既に、数人が首だけのマネキンを使ってヘアカットやらアレンジをやっていて、その様子を色とりどりの制服を着た生徒たちが真剣な面持ちで眺めているところだった。
完全に場違いな五人が登場してしまったばかりに教室内は一時騒然となってしまった。
実演をして見せている生徒ですら絶句しているほどだ。
鷲田はそんな状況などお構いなしといった様子でその場で呆けている教師に事情を伝え、五人の実力派集団が呼び集められて俺たちの公開イメチェン(?)が始まった。
カットが始まってすぐに俺を担当した生徒がなにやら驚きの表情を浮かべていたのは、思い過ごしだろうか、きっとそんなことはないはずだ。
顔の地味さに怖気付いたんだろう。
カットが終わるとカラーリングに移り、誠ノ介以外の四人が――俺が金髪で、良太がゴールドブラウン、一騎が黒髪のところどころに白のメッシュをいれ、佑斗が茶髪といった具合に――髪の色を変えることになった。
そしてその後、俺たちは別々のブースに連行され、衣装合わせにはいった。
俺は担当者――ちなみにカットのときも女子だった――にカットのときと同じ反応をされてしまった。
「き、君ってさっきの人と同一人物なの? 信じられないよ・・・・・・。まるで別人だ・・・・・・」
とまで言われてしまう始末。
これはカットを担当してくれた三年生の腕のよさのおかげ。
なぜか理由はわからないけれども、そんな言葉の後にとびっきりの笑顔を差し向けられた。
どちらにしたって母ちゃん以外のちゃんとした異性に髪を切ってもらったり、服装をコーディネートしてもらったりするのなんて一体何年ぶりのことだろうか。
俺たちが登場した当初は訝しさと嫌悪感を貼り付けたような表情だった連中も、いざとなるとノリノリで笑顔になっているのだから彼女も含めスタイリストの鑑と言えるだろう。
それから衣装合わせは着々と進んでいった。
俺は下着を除いて全ての服を交換された。
英文やら写真がプリントされた白いVネックのロングティーシャツに――俺がそれまで穿いていたものとは値段が大幅に違うであろう――ブラックのジーンズを白地ベースのヘビ柄のベルトで締めた。
それから同じく黒のシークレットブーツを履かされ、グレーのパーカーを羽織り、腰には紫の布を巻かれ、ベルトが見える高さで大きな銀色の安全ピンで止められる――まるでスカートでも穿いているかのような――という格好になった。
そこにピアス、リング、ネックレスといったシルバーアクセサリーをいくつかプラスされて、仕上げとしてボリュームをだすように髪型を整えら全てはめでたく終了となった。
良太は白地のティーシャツの上に茶系の革製のジャケットを羽織り、インディゴブルーのジーンズを穿き、青いスニーカーを履いて立っており、誠ノ介は黒い半袖のティーシャツの上に赤いパーカー、黒いジーンズと黒いブーツという出で立ちで、一騎は黒いVネックのロングティーシャツにブルーのジーンズ、ピンクのスニーカーを履いて黄色と黒のチェック柄のアウターを腰に巻いている。
そして最後に、佑斗は黒いカッターシャツに白いジャケット、白いジーンズに同色のネクタイと革靴というスタイルになっていた。
どうやら色々と――アクセサリーという名の――おまけが付随したのは俺だけらしい。
ここまで見学者には、ほぼシークレットの状態で行われていたイメチェンが初めてお披露目となり、なぜか大いに沸き、携帯で写メなんかまで撮られ、そこかしこから喚き声や泣き声までもが聴こえてきてしまう始末。
おそらくは担当者の技量に感動してのことだろう。
これぞまさに、スタイリストマジック(?)だと思う。
そうこうしながら、ついに迎えた午前十一時。
俺たちは今、体育館のステージの上に立っている。
緞帳はまだ降りていて、楽器の音合わせを終えてセットリストの打ち合わせにはいるところだ。
「セトリのことだけど、一人ずつオリジナルでやりたいの挙げてこうぜ?」
良太の提案に俺たちは頷く。
それから良太、誠ノ介、一騎、佑斗、俺の順に曲目を上げて万一のアンコールに備えてボカロ曲とアニソンを一曲ずつセレクトした。
そして誠ノ介が観客から向かって右端の赤を基調としたドラムセットを前に座り、その数歩手前に少しずれて一騎がトランペットを抱えて立っている。
その隣には良太が青いエレキギターを抱えて立ち、彼と黒いベースギターを抱えた佑斗に挟まれるように俺がマイクを目の前に佇んでいて、全員の前にスタンドマイクが設置されている。
これが俺たちメンバーそれぞれのポジションであり、懐かしい光景。
――まさか、またこんな日がくるなんて思ってもなかったな・・・・・・。
そんなことを考えながら自嘲ともなにともわからない複雑な微笑を口の端に刻んでいた。
四人とそれぞれに視線を一度交換する。
全員が同じような表情をしている。
たぶん、考えていることも同じだろう。
「たとえ替え玉でも、精一杯やってやろうぜ!」
俺の声に四人が同時に頷いた。
それを確認してからステージの隅に立っていた鷲田に合図を送ると、彼女は一つ首肯してステージ上から姿を消した。
ステージの照明が落とされ、幕が開いたことでピリピリとした緊張感が生まれ、俺は一つ深呼吸をする。
客席はざわついていて、再び証明が灯ると、割れんばかりの拍手と歓声が場内を満たす。
なにもかもが懐かしい感覚だ。
俺がバンドメンバーの紹介を終えたところで良太がマイクを手に取った。
「はじめまして。そして、改めましてDO5です! 今日は、友達の依頼でいきなりステージに立つことになりました。こうやってステージに立つのは一年半ぶりだし、おまけにプロの代役だし、正直言うとかなり緊張してます。こう見えて俺たちは一応、バンドをやっていた頃はメジャー進出の話が持ち上がっていました。でも、その話を反故にしてバンドは解散。それ以来、音楽活動も遊び程度でほとんどやってません」
良太はそこで懐かしむように遠くを見つめた。
俺だけじゃなく、この場に立っているみんながみんな同じように不安と嬉しさ、懐かしさと感動を今、噛み締めている。
それは当然のことのように思える。
実際には見ていないけれど、感激屋の誠ノ介にいたっては既に泣いているような気さえするし、俺だって早くも泣きそうだ。
良太の様子を見ていた一騎が軽く肩を小突いて微笑みかける。
――頑張れ、良太。
心の中で一言彼に声をかける。
場内から声援が聴こえる。
彼は頷いてまた言葉を紡いだ。
「・・・・・・それなのに、今日この場所にたってます。今朝、学校に来て初めて状況の説明を受けて、大慌てで準備してぶっつけ本番で挑むことになります。経緯が経緯なだけに、心境としてもかなり複雑だけど、それでもやれる限り精一杯やりたいと思います・・・・・・じゃあ、一曲目、いきます。聴いてください・・・・・・〝RINGS!!〟」
再び拍手と歓声が響き渡り、イントロが被さって、自然と拍手が手拍子に切り替わった。
♪~ いつでも直球一本で
とことん不器用 損ばかり
ちょっぴりヘコんだ そんな夜
嫌なこと全部を投げ捨てて
顔上げ 前向き 唄おうよ!
毎日お仕事 くたびれおじさん
ブランド大好き おばさんも
掴め! 踊れ! 騒げ! 笑え!
5つの音を響かせて いつしか必ず
輪になると ずっと信じて 歌うから
僕らの体力続くまで 一心不乱に
この場所で みんなにこの音届けたい ~♪
沸き起こる拍手と歓声の中で、一騎が息を弾ませながらも俺の隣に進み出て、額に玉のような汗をかきながら笑顔を浮かべて言う。
「ありがとう。ちなみに聴いてもらった曲が、DO5として初めて作った曲です。作詞は楽器が全く弾けなくて妄想大好きなこの男、ソウが担当していました」
そこで言葉を切ってこちらを向き、一騎は俺の肩に手を載せる。
そして得意の破顔一笑。
その笑顔に釣られるようにして客席からも微かな笑いが起きた。
「いきなりだけど、みんなの好きな季節はなに?」
一騎の問いかけによって四種類の返答が異口同音に飛び交う中で一騎が言う。
「俺は夏が一番好きなんだよねえ~」
「お前は夏だと、海に行きゃあビキニが見たい放題だから好きなんだろ?」
俺はさっきの仕返しとばかりに茶化してやるけれど、彼はケロッとした顔で言った。
「たしかにそれもあるなあ~」
彼の答えに客席から女子のブーイングじみた声と男子の同意の声や歓声が聴こえてくる。
「でもさ。夏ってさ、心なしか活発になるじゃん?」
そこで言葉を切った一騎は柔らかく微笑んでから続ける。
「不思議とテンション上がるし、明るい気持ちになれるっしょ? だから夏が好きなんだ。ってことで、時期的にはちょっと早いけど、次は俺的に明るい気持ちになれる曲。聴いてください。〝SUNFLOWER〟」
夏をイメージしたミディアムロックのイントロが流れ、リズムに合わせて手拍子が鳴る。
♪~ 晴天の青い海で 二人は肩を並べ
檸檬味のかき氷を 君は独り占め
「一口食べる?」って訊く口許に
イタズラな微笑みが にじんでる
そんな夢を見てた 僕の横で
君はどんな夢 見てるのかな?
君はいつでも 柔らかい笑顔で
青空に向かい 両手広げてる
「ほら、太陽の匂いがするよ」って
また 得意の ハジケルエガオ
まるで君は 暑い夏に愛された
黄色く咲き誇る タイヨウの花 ~♪




