13話 ウィンの料理店
試験日程最後の科目、実技試験が終わり、試験会場を後にする周囲の子供たちからは悲喜交々の声が上がっていた。
まあ、受験なんてものは結果を見るまではどうなるか分からんもんだよ。
出来た出来なかったで一喜一憂するのではなく、自分を信じて合格発表の日まで過ごせばいいのさ。
もっとも、俺には関係ないけどな!
ハッハッハァーーー!
……ちょっと調子に乗った。
いや、まさか発表を待つまでもなく一発合格貰えるなんて、思ってなかったもんだからね。
多少はね?
同じく、全ての試験を終えた俺は校門の前に戻るところだった。
食堂は試験開始後は保護者は出ていかなければならないらしく、カーラと合流した後帰宅する予定だった。
もっとも、試験の出来が悪かっただの落ちたかもしれないだの、そういった憂鬱な話をすることにはならなかったのだから、足取りは軽い。
広い校内を彷徨いようやく辿り着いた校門で、カーラの姿を探す。
(さてと、カーラは……ん、いた)
保護者でごった返す校門付近でも、さすがにうちの母さんは目立った。
美人ってほんと得だねぇ……
「おかーさーん! 終わったよー」
「ん、お疲れ様! ……で、どうだった?」
「それがねー……」
そこから実技試験であったことを話す。
試験はやはり事前の練習と同じだったこと。
試験の相方になった貴族風の男の子がやたら上から目線で見下してくるもんだから、イラっときたこと。
相手の詠唱スピードがやたらと遅かったこと。
そして、相手の態度が鼻もちならないのでついカッとなって詠唱短縮を使ってしまった結果、その場で合格を言い渡されたこと。
ありのままを話した。
「……てなことになって、もう受かっちゃったみたい」
「あー………詠唱短縮使ったら、そりゃ合格するよね。だから使っちゃだめだよって言ったのに」
あ、そんなもんなんすね……
本来高等学園で習うことが出来てるんだから、そりゃそうなのかもしれないけど。
元日本人の俺としては「習ってない漢字を使わないの!」やら「まだ教えてない単語を使わないの!」やら、どうにもそんな声が聞こえてきたわけで。
やっちゃったかなーって気がしたわけで。
「塾で習ってたので~」なんて言い訳したところで、「ここは学校です!!」とか意味の分からないことを言われて頭を抑えつけられるのだ。
(訳わかんなかったな、あれ。協調性の意味を履き違えてるんだよなぁ……)
この世界基準の考えはちょっと違うみたいだし、そういうのはないのかもな。
魔術に関しては小さいうちからどんどん先に進めるだけ進めるべきとか、そんな方針だ。
特にそういった制限は設けないのだろう。
「使わないでも受かってたとは思うし、結果的には変わらないんだけどね」
「そんなの分かんないし! 使っちゃったほうがよかったかも」
あんたちょっと自分の娘を過大評価しすぎじゃないの? なんて思う。
まあ確かに、飛び級で入学を決めて、更に上の学年で使える技をもう扱えるとなると、さすがに自分が同年代の平均能力を上回ってるのは分かるけど。
評価してくれるのは素直に嬉しいし。
「あ、そーだ。相手の子がゆったり詠唱してたのは何か理由があるの?」
「うーん……イメージを鮮明にするために時間をかけて詠唱する人もいるけど、まだ素早く魔術を使うことに慣れてなかったんじゃない?」
――確かに、ゆっくり詠唱文をイメージしながら読み上げた方が確実に魔術は行使できる。
最初は俺もそうしてた。
が、そこから反復練習を積み重ねることによって、徐々に徐々にスピードを上げてきた結果、最近ではもうルーチンワークのようになっていた。
そう考えると、パティと俺は熟練度という意味では同年代で頭一つ抜き出ているのかもしれないな。
や、あのエーミール君がちょっと下手な子だったのかもしれないけど。
(あんだけ自信満々だったもんなぁ……ちょっと、かわいそうなことしたかな?)
今思えば年下の女の子を気遣う発言だったように……思えなくもない。
もしかしたら、本気で心配してくれていたのかもしれない。
ちょっと男の部分によるマイナス補正がかかっただけで。
…
……
…………いや、ないかな?
(で、でもまぁ、俺のせいで落ちてたりしたらごめんな……南無)
心の中で手を合わせる。
そもそも試験に通る基準は、基本的には初級魔術のうち2属性を一通り使えることだ。
エーミールの魔術はスピードこそ無かったものの、攻撃役の時に見た感じでは火、水に関してはある程度の種類を見ることが出来た。
試験に通るだけの力は持っていただろう、多分。
「それじゃ、ついでに制服とか買いに行く? それとも一応、発表後に買う?」
「んー……まだいいや。あんま先走ってもいいことないし、合格発表の日に買いに行こ!」
それこそ協調性的な意味で、わざわざ合格発表前に買いに行って目立つこともない。
一応、人生を左右すると言っていい一大イベントだ。
周りが必死の中わざわざ受かりましたアピールをして、嫌な奴だと思われるのは避けたい。
「それもそうだね。それじゃ、早めの合格祝いに今夜はごはん、外で食べよっか!」
「うんっ!」
何はともあれ、胃に穴が開くような思いをすることもなく無事に受験を終えることができたんだ。
ちょっとぐらい浮かれててもいいよな。
――――――――
てなわけで今夜は外食だ。
祝い事があればちょっと豪華な食事をするっていうのは、どこも同じってことらしい。
とはいっても、侮ることなかれ。
別にカーラがメシマズなわけじゃない。
むしろ料理上手だ。
家での普段の食事で出てくる料理はシチューっぽいものだったり、オムライスっぽいものだったり、前世でいうところの、洋風でオシャレな料理が出てくることが多かった。
パンに野菜スープ、サラダ。
時にお肉が出される。
そんな質素な食事を想像してたけど……思いのほか料理には多様なバリエーションがあり、味も生前にレストランで食べていたものと、同じレベルと言っていいぐらいには美味しい。
一人暮らしで適当な食生活を送っていた身としては、お袋の味ってやつを久しぶりに味わえる食事の時間は毎日の楽しみの一つになっていた。
何より、この国では主食として米が食べられているのには驚いた。
確かに洋風の料理がよく出てくるけど、そのお供として食べられているのが米なのだ。
もちろんパンも存在する。
でも、うちでは米を食べるのが当たり前だったし、パティに聞いてみても主食は米なのだという。
なんでもマーヴィック王国は魔術の国であると同時に、農業、それも稲作の国としてもその名を轟かしているんだとか。
その生産量は近隣諸国では随一を誇るらしく、国内では基本的に米を食べるのが一般的となっているそうだ。
もちろん、米に育てられた身としては願ったり叶ったりだった。
パンも悪くないけど、米は腹持ちもいいし、味わい深いし、何より炊き立てのあの半ば透き通って艶やかな色合い。
蓋を開けた瞬間、鼻腔いっぱいに広がるあの出来立ての上品な香り。
こっちの米はどちらかというと日本米に近い味で、あまりパサパサしすぎるでもなく、ベトつく訳でもなくといった丁度いいバランスを持った米なのだ。
控え目に言って、最高だった。
ビバ、米の国!
しかし、イマイチこの世界での物価水準は分からないな。
まだ買い物したこと無いし。
うちの場合は一家の大黒柱であるアルフの稼ぎはいいし、カーラが趣味兼副業で作っている小物や衣類なんかも中々人気らしいので、金には余裕がありそうだけど……
案外、想像通りの食事をしている家庭も多いのかもしれんね。
「ねね、お母さん」
「んー、なーに?」
「うちって、もしかしてお金持ちだったりする?」
「え? ……き、急にどうしたの……?」
おうふ。直球すぎたか……ちょっと軌道修正。
「えっと、ほらっ、学校に通うのってお金もかかるんでしょ? なんか当たり前に通うことになってたけど、そこのとこ大丈夫かなーって……気になってたの」
「ああ、そんなこと……シーラはそんな心配しなくていーのっ。一応、今のとこお金には困ってないよ。お父さんも頑張ってくれてるからね!」
まあ、そりゃそうか。
国内トップレベルの冒険者が、子供を学校に通わせることもできない暮らしを送っているなんてことになったら、誰も冒険者稼業を目指そうなんて思わないよな。
例えカーラが引退したところで、暮らすに困ることはなさそうだ。
それはそれとして、家で食べる食事もいいもんだけど、やはり本職の作る料理ってのはそれとはまた違う期待が高まる。
それで飯食ってるわけだからな。
食材、味付け、調理設備、何を取ってもこだわり抜いたものであることは言うまでもないし、ましてやここは異世界だ。前世では見たこともないような料理が出てくることもあり得る。
彼らも生活が懸かっているのだから、素人に簡単に味を再現されるような生半可なものは出してこないだろう。
生前には祝い事があると、必ず家族で行っていた行きつけの店があった。誕生日祝い、受験の合格祝い、習い事の優勝祝い、その他お祝い。
ことあるごとに通っていた。
が、そんな店がうちのお母様にもあるらしかった。
「ほら、ここだよ! 母さんの昔の知り合いのお店!」
『ウィンの料理店』
コックは多分、ウィンさんなんだろう。
―――――――――――
「こんにちわー。久しぶりだね、ウィンさん!」
「おっ、カーラじゃねぇか! いらっしゃい!」
入店直後に気軽なやり取りが行われる。
やっぱり、常連なんだろうな。
ていうか、カーラは誰とでも気軽に会話するイメージしかないね。
会話をしている相手がアルフとレンツ家の面々ぐらいしか知らないからかもしれないけどさ。
非常に安直なネーミングの店だったけど、店内の装飾は、派手すぎず地味過ぎず。
照明は天上から釣ってあるランプのみで、少々光量が足りてない気もするけど……薄暗い店内は逆にシックな雰囲気を醸し出している。
板張りの床も綺麗に掃除されているようだし、中々センスのいい店だ。
いや、生前はこういった穴場的なオシャレな店でご飯食べることなんてとんと無かったんだけどさ。
誰かと飯行くっていったら基本的にラーメン屋、ファミレス……あとは、居酒屋ってとこか。
彼女なんて碌にいたこともないから、洒落た店だとか、デートスポットだとかそんなのには疎かった。
(……センスがいいとか、そんなこと言える立場じゃないじゃん………)
「そっちは、娘さんだよな?」
と、一人で勝手に傷を抉っていると、そこでウィンと呼ばれる店主らしき男に声を掛けられた。
「あ、はいっ! 初めまして、シーラと言います」
「おお、こりゃ丁寧にどうも……俺ぁウィンってんだ。ここのオーナーをやっててな。カーラとは冒険者時代からの付き合いなんだ」
冒険者時代からってーと、結構古い付き合いだったりするんだろうか。
「もしかして、ウィンさんも冒険者だったんですか?」
「おう。カーラが駆け出しの頃からしばらく、パーティーを組んでてな……」
「あ、懐かしいねーその話」
なんて言いながら話はカーラの冒険者時代の話に入っていく。
店内には他に客もいないし、まだ食事時って時間でもないからな。
興味もあったし、素直に話を聞くことにする。
「あんときゃ、ペーペーが何抜かしてやがんだって思ったな」
「ほんとねー。いかにもそんなこと考えてそうな顔してたよ、ウィンさん。目つきが怖かったもん」
このオッサンの怖い目つきか。
さぞかし恐ろしいんだろう。
料理人の目じゃないしな。包丁でもっと他のことしてそう。
「そりゃお前、成人もまだ済んでない小娘がいきなりパーティーに入れてくれなんて言ってきたんだぞ。ランクシステムすら知らなかったじゃねぇか」
「しょーがないじゃん! 学園じゃそんなこと教わらなかったんだし……」
「いやいや普通知ってるって! お前、アルフとかに聞いてなかったのかよ?」
「あのときはまだ冒険者になる気、無かったんじゃない? そんな話してなかったよ」
カーラの抜けっぷりは学生時代から遺憾なく発揮されていたらしい。
……ていうか、カーラは何歳で冒険者になったんだろうか。
俺が生まれたときは19歳って言ってたから今年25歳のはずだ。
妊娠するまでは冒険者稼業を続けてたらしいし、学校を卒業してから妊娠するまでの短い期間に国内トップレベルのパーティーの一員になっている。
つまり2,3年やそこらで他の冒険者をごぼう抜きしたってことだ。
(……すごくないか? それって)
そもそも成人すらまだって言ったって、高等学園を卒業したとしてもまだ15歳。
そっから5,6年しないとパーティーに入ること自体が躊躇われるもんなのかな?
「えっと、お母さんって何歳で冒険者になったの?」
「んーと……学園を卒業してすぐだったから……12歳かな?」
12歳。
てことは中等学園までしか出てないってことか。
「それって、中等学園を卒業してすぐ冒険者になったってこと?」
「そうだね。高等学園まで行くって人は少ないんだよ。学術系の子たちは結構行くけど……魔術や剣術専攻の子たちは実戦で鍛えるって人の方が多いかな。それに、お金もかかるしね」
「あれ、そうなんだ……。それと、成人って大人になるってことでしょ? 何歳でなれるの?」
「マーヴィックでは15歳からだな。高等学園卒業でちょうど、成人だ」
うーん。
つまり、この世界での高等学園は前世でいう所の大学とか、専門学校って立ち位置なのか。
逆に、魔術&剣術を専攻するっていうのは工業や商業科の高校に通うってイメージ。高卒で就職するみたいなもんかな。
「詠唱短縮とか、気象操作系の魔術だとかを深く学びたいんだったら行ってもいいけど……正直、行っても出来ない人は出来ないし、出来る人は行かなくても出来るんだよね。だから、シーラが行く意味はあんまりないかな?」
どうやら、実践よりも理論まできっちり学びたい人向けってことらしい。
理論をきっちり把握してなくても実践できるのなら、行く意味もないだろう。
……てことは、俺は3年で学校生活終わりってことか。
長いような短いような。
いや、あんまり長い間通ってても仕方ないけどさ。
もう既に軽く10年は通った訳だし。
「まあ、その時になったら考えるよ。行きたいって言ったら、行かせてくれる?」
「もちろん。ちゃんと目的があるなら、無駄なお金にはならないからね」
「だな。将来何かなりたいものが出来て、そのために高等学園まで通わねぇといけねぇってこともある。学校行きながら考えればいいさ」
そんなもんだろう。
ましてや、まだ6歳なんだ。
これから先色んなことを経験して、やりたいことを探せばいいんだ。
20年も生きて、やりたいことが見つからなかった奴が言えたことじゃないけど。
「ん、そろそろ飯時だな……客も来るだろうし、ちょっと仕込みするわ」
「はーい。あ、私らはいつものでお願いね!」
「おう、了解だ」
そう言ってキッチンの方へと消えていくウィン。
ちなみに、こっちの世界でも時計はある。
壁に釣られている掛け時計に視線をやると、今は17時。確かに食事時かもしれない。
偶然にも、こちらの時間は表記こそ違えど1時間、1分、1秒といった単位は地球と一緒だった。24時間で1日だ。
必然、もしかしてここって地球? ……なんて考えたこともあったけど、地球なら1年が350日という時点で毎年の四季にズレが生じるはずだ。
今のとこ、大きく四季の移りがズレているって風でもない。
どっちかっていうと、今生きている惑星は太陽系外に存在していて、太陽と地球の距離そのままが、太陽モドキと離れている。
自転周期はそのまま一緒、って考えた方がリアリティがあるだろう。
……リアリティも何も、今更何をって話だけど。
それより、今は気になることがある。
「いつものってなに?」
「んー……ま、出てきてからのお楽しみってことで。シーラも好きだと思うよ」
何を根拠に言ってるんだ。
「そ、そんぐらい教えてくれてもいいじゃん!」
「そんぐらい待ってもいいじゃん。我慢が効かないと将来損するよ~?」
別に好き嫌いがあるわけじゃないし、ゲテモノ料理でさえなけりゃ食べるけどさぁ……
異世界のプロの料理人が作る品がゲテモノじゃないとは断言できない。
文化も味覚も何もかも完全に同一な訳がないのだ。
目の前の女の子がゲテモノ好きには見えないし、大丈夫だとは思うけど……それでいて案外、という可能性もある。
食文化の違いなんてそこら中に転がってそうだ。なんてったって異世界だし。
たまたま洋風な美味しい料理が出てきたのがラッキーだったのかもしれない。
……想像すればする程嫌な予感が加速する。もうゲテモノが出てくる気しかしなくなってきた。
カエルの姿焼きとか。ゴ〇ブリのフライとかっ!!
「な、何卒……何卒っ!! どうかまともな食べ物でありますように……っ!!!」
「えっ……ど、どうしたの? そんなに不安がること!?」
未知の恐怖に震えながらそう祈るしかなかった。
―――――――――
ゲテモノ料理の恐怖に怯えながら待つこと20分。
ちょうど腹も空いてきた。
想像とは裏腹に、先ほどから何やらいい匂いが鼻腔いっぱいに広がっているし、食欲が刺激されっぱなしだ。
なんの匂いだろう。
スパイシーな香りだ。
それに、炒め物をしているような、そんな音。炒飯的な料理かな?
……いや、落ち着け。匂いが香ばしかろうが見た目がアウトな料理なんぞ、この世にいくらでも存在する。
期待すればするほど裏切られたときの落差は激しい。油断は禁物だ。
「待たせたな、出来たぞ」
そんなことを悶々と考えていると、キッチンからウィンが出てきた。
手には湯気が立ち上る……フライパン?
「え、それって……そのまま食べるんですか?」
「うん? ……ああ、これはフライパンじゃないぞ。スーカリって料理の皿だ」
「スーカリ……って」
目の前にフライパンのようなモノが置かれる、そこには……
白身魚、エビっぽいもの、貝類っぽいもの、イカっぽもの、玉ねぎっぽいもの鶏肉っぽいもの……それに黄色っぽく炒められた米。
パエリアっぽい料理があった。
いや、ていうかパエリアだ、これ。
ピ○ーラの出前でしか食べたことなかったけど、確かこんな感じだったはずだ。魚介類、肉類、野菜類、それらを米の上に乗せて炊き上げるのだ。
……てことは、この入れ物は所謂パエリア鍋か。
確かにフライパンじゃない。
ボリュームは中々に大きく、この身体だと完食できるかすら怪しいサイズだ。
パエリアってこんなデカかったっけ?
「うちの看板料理だ。家で作ろうにも、魚介類はたけぇからな。うちは親戚から格安で仕入れてるから、この値段で提供できるってわけだ」
魚介類は高いのか。
言われてみれば生まれてこの方、海が云々川が云々の話をあまり聞かない気がする。食卓にもそうそう並ぶもんじゃなかったかもしれない。
「まあ、食ってくれよ」
「わ、分かりました! それじゃ…」
「「いただきます!」」
カーラと共に手を合わせ、最初の一口を口にする。
………こ、これは!
「す、すごい! おいしいですっ!!」
語彙力が吹っ飛ぶ。
いや、仕方あるまい。目の前の料理はそれだけの威力を秘めた逸品だ。
まさに、筆舌に尽くしがたい美味さ。それが相応しいだろう。
米は炒められパサパサとしているが、ニンニクのスパイシーな風味が口の中に潤いを与えてくれる。
出てきた唾液が魚、肉、野菜、そして米を混ぜ合わせていき、そして奏でられる味のハーモニー。
(――美味い! 美味すぎるっ!)
所作なんて気にせず、ただひたすらに飯を掻き込んだ。
前に食べたパエリアは、最初こそスパイシーな味で美味しいと感じた。
が、食べ進めるに連れて飽きがきて、最後まで美味しく味わえなかったのだ。
しかし、だ。
このパエリアはいくらでも入ってくれる。
飽きがこない。
なんだ、何が違うんだ。
……いや、思い当たることはあった。
先ほどから感じていたこの、ちょっとした酸味とも言えないような酸味。
味に覚えがある。
これは――
「もしかして、レモン入ってます?」
「れ、れもん? なんだそりゃ?」
おっと、レモンじゃ分かんないか。
「えっと、酸っぱい食材みたいなもの、何か入ってます?」
「おお……そこに気付くか。これは秘密なんだが、レムルの実の搾り汁を使ってるんだ。さっぱりしてて飽きがこないだろ?」
こっちでのレモンはレムルの実というらしい。俺は元々唐揚げにはレモンを掛ける派閥の者だったし、この組み合わせは全然イケた。
オイリーな料理にレモンのさっぱり感は最高に合うんだよなぁ……
そのままどんどん箸を進めているうちに、あっという間に完食してしまった。
いや、すごいな、これは。
毎日でも食べに来たいぐらいだ。
「あの……すっごく、美味しかったです……」
「お、おう、そりゃよかった。作った甲斐があったってもんだ、ガハハ!」
そう言って照れ隠しなのか、豪快に笑うウィン。
元冒険者って話だったよな? 実は幼少の頃から料理の修行を積んでた、とかじゃないの?
そう疑ってしまうぐらい、いいものを食べることができた。
これもまたセンスなんだろうなぁ……。
羨ましい限りだ。
「私も初めて食べたときはビックリしたんだよね。そっから、なんかいいことあったときはここに来て食べてるんだ」
「俺が店を開いたときからの常連だからな。6年ってとこか」
6年ってことは、俺が生まれた時ぐらいか。
「聞いたときビックリしたよ! 料理好きなのは知ってたけど、冒険者やってるムキムキのおじさんが、急にコックになるって言いだすんだもん」
そりゃまぁ、そうだろうな。
俺は未だにこの料理を、目の前の厳ついおっちゃんが作ったとは信じられないし。
「オイ、おじさんってなんだ、おじさんって。俺ぁまだ33で、当時は27だよ」
「いや、十分じゃん」
「なにおう!」
すっかり置いてけぼりだけど、今はこの食後の余韻に浸りたい気分なのでよしとする。
ウィンの料理店か……これは、親子二世代でお世話になることになりそうだ。
また来たいな。




