第八話 ガブリエルⅤ
鳥の声が聞こえてきます。
ミーケはねがえりをうちました。くたくたで起きたくはありません。けれど、心のどこかには、出て行かなきゃという、重りのような大きな石をかかえていました。
その時、きれいな音楽が耳に響いてきました。川が流れるような、優雅な音です。
この音は……?
ミーケはむくりと起きあがりました。そして、そのまま毛布からぬけだしたました。靴をはいて、扉を開けて、最初は歩いていたけど、こらえきれずに走りだしました。
この音は……きっと、そう!
なだらかな坂をくだって、昨日の見知った木々の間からのぞくと、ミーケの思ったとおり、サラの姿がありました。
ゆっくりと鳥の羽根のように手を動かし、朝日をあびたサラは、きらきらとして、湖に浮かぶ白鳥のようにも見えました。
昨日と同じように、そばにはガブリエルが椅子に座って、楽器を弾いています。ミーケは邪魔にならないように木陰に座ることにしました。
優しい朝の光のようだった音楽も、だんだんと、ガブリエルの手のなかにある棒が、横に激しくなるにつれ、荒波のように変わっていきます。その音にあわせるように、サラも情熱的に踊り、最後にはターンを数回して、地面に着地しました。
思わず、ミーケは拍手していました。そして、心の底から願いました。
もっと、もっと、サラの踊りを見ていたいなあ!
だけど、ここにずっといたら、サラやムロおばさんの迷惑になっちゃうのかなあ……。
ミーケのそんな複雑な思いを知らないサラは、ミーケに気づき、笑顔であいさつをしてきました。
「おはよう! よく眠れた?」
「うん! 昨日はありがとう」
「そんな……! こっちのわがままで泊まらせることができなかったのに」
サラはしおれたように、首をうなだれました。ミーケは両手をふって、否定します。
「ううん。サラが気にすることなんて、なにもないのよ!」
「そう? そうだ。一緒に朝食食べない? 昨日のおわびに食べていって!」
サラはミーケが呼び止めるのもかまわず、家に入っていきました。