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ミーケと天使の物語  作者: 雪永晴
8/10

第七話 ガブリエルⅣ

  その声はいきなりでした。

「あら。さっきのおちびちゃんとサラじゃない!」

 サラとミーケは、振りかえりました。すると、さっきミーケがぶつかったおばさんが、リュックを背負って、立っていました。

「ムロおばさん」  

  サラが、おばさんの方に手を向けました。

「ご近所のムロおばさんよ。ミーケ、知り合い?」

  ミーケはそれどころじゃなく、今夜の寝床のことばかり考えていたので、返事も気のないものになってしまいました。

「ううん……」

「どうしたんだい! 泣きそうな顔して!」

 ムロおばさんは近づいてきて、ミーケの背中をばーん! と叩きました。ついでにサラの背中にも同じことをしました。

「ちゃんと食べてるかい? サラは食が細いから、心配だよ!」

「え、ええ……」

  サラは苦笑いしました。ミーケはやっぱり考え事をしていたので、おばさんの言葉が耳にうまくはいってきませんでした。

「どうしたんだい?」

「実はこの子……ミーケというんだけど……小さいながら、旅をしてるらしいの。それで、今夜の宿が決まらなくて……その」

 ミーケの目から見ると、どうも、サラはムロおばさんが苦手なタイプのようで、緊張した様子で、たどたどしく説明していました。

「ふ~ん……」

 ムロおばさんはしばらく黙って聞いていましたが、聞きおわると、口をひらきました。

「な~んだい。じゃあ、あたしのところで泊まればいいことじゃない」

「え?」

 ミーケとサラは同時に聞き返しました。

「うちは子供もいないし。気弱な亭主だけだから、歓迎するよ!……って、そちらのおちびちゃんはどうかい?」

「うれしいわ!」

  ミーケは両手を握りあわせて、ぴょん! と、とびあがりました。こんなに暗くなっているのに、ミーケの周囲には、特にムロおばさんに光が集まっているように見えました。

「そんなに喜んでもらえて、うれしいよ」

 ムロおばさんがにやっと笑います。サラも胸をなでおろしたように、ミーケの方を向いて、言いました。

「よかったわね。ミーケ」

「うん!」


  ムロおばさんの家は、サラの家のすぐ近くでした。これで、サラの踊りも見れるわ! と、ミーケは内心とびあがっていました。部屋は二つあり、一つの部屋は、サラの家と同じような家具があり、置いてある場所もほとんどいっしょでした。

  ムロおばさんが言っていた気弱な亭主も紹介されました。優しそうな口ひげをはやしたおじさんで、名をムバルダといいました。ムバルダはにこにこしながら、手をだしました。

「いつまでもここにいるといい」

  ミーケはありがとうと言って、その手を握りかえしました。

 夕食もごちそうになり、ミーケはチャミエルの朝食に続き、あたたかいシチューやパンやチーズをいただきました。おなかがぱんぱんで、ほくほくで、ミーケは満足でした。なんて、運がいいんだろう! と、これまでのつらさも忘れるくらい、幸せな気分になりました。


 寝るときは、ムロおばさんとムバルダは別の部屋に行き、ミーケにはだんろの横にふかふかの羊の毛をたくさんおき、その上にシーツをかぶせた簡単な寝床をくれました。

  ミーケは感激のあまり、ムロおばさんに抱きつきました。ムロおばさんは「おおげさだねえ」と笑いながら、背中をなでてくれました。

  その夜、ミーケは久しぶりに冷たい風もあたらない、あたたかな毛布で寝ることができました。

 獣におそわれることも心配せずに寝るのは、なんてすばらしいことなの! 天国に行ったような気分とはこのことをいうのね!

  ミーケはおひさまのにおいがするシーツをかぎながら、その幸せを十分にかみしめました。

 

  しかし、ふと、朝になったら、出て行かなきゃいけないんだろうな……という思いが、小さな胸によぎって、悲しくなりました。

 ムバルダおじさんはああは言ってくれたけれど、いつまでもいたら、迷惑になるにちがいないわ。それにここに残る理由がないもの……。

 ミーケの目に涙がこみあげてきます。目を閉じると、一粒だけ流れていきました。

  今日、会った人たちが、ミーケの頭のなかに流れていきます。チャミュエル。サラ。ムロおばさん、ムバルダおじさん……。チャミエルに会ったことが、遠い昔のように思えます。

  ミーケは自分を導いてくれたチャミュエルに、いつのまにか心のなかで話しかけていました。

  ねえ。チャミュエル。

  あなたなら、どうする?

  想像上のチャミュエルは口端を上にあげて、言いました。

「君のお好きなように」



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