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シスコン次男の奮闘  作者: さき太
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間章 ある兄妹の日常②

 次郎が目を覚ますと隣で末姫が眠っていた。自分が昼寝をしている間に部屋に入って来て、そのまま寝てしまったらしい。

 「だからさ、お兄ちゃんの部屋に勝手に入ってきちゃダメだって言ってるでしょうが。」

 幸せそうに寝息を立てている末姫の頬をつねってみるが、起きる気配がない。次郎はため息をついて、妹に掛け物を掛けた。

 いったい何歳までこうやって懐っこく寄って来てくれるんだか。いずれ離れてくと思うと淋しかった。末姫ちゃんが嫁に行くってなったら相手に嫌がらせする自信あるな。妹がそんな年頃になるのはまだ当分先の事なのに、次郎はそんなことを思った。そして人間なら行き遅れに片足を突っ込んでいる姉にも思いを馳せた。姉貴が嫁に行くって言ったら、喜んで送り出すんだけどな。あの暴力女を貰ってくれる男がいるとも思えないけど。そもそも半分しか人間じゃない自分たちは、どこまでを人間と同じに考えていいんだろうか。自分たち兄弟は何処までが人間で、どこまでが神なのだろうか。父のように不死でないことは解っている、でも人間と同じように寿命があるのかは解らなかった。長男でさえまだ二十歳。自分たちがどのような人生を歩まなければいけないのか、どれくらいの時間を生きることになるのか、想像もつかなかった。そんなことを色々考えて、次郎はどうでもよくなった。そんなことその時になってみなきゃ解らない。

 末姫が目を覚ます気配がして、次郎は妹の方に目をやった。

 「末姫ちゃん。何度も言うけど、人の部屋に勝手に入ってきちゃいけません。いつも言ってるのになんでお兄ちゃんの言う事きけないの。」

 そう言うと、末姫はまだ眠そうに目をこすりながら答えた。

 「だって次兄様いつもお部屋にいるんだもん。外から声かけても気が付かないし、御用の時は入らないとお話しできないから。姉様も次兄様には何してもいいって言ってた。」

 俺の扱いどんなだよ。言われてみれば、案外礼儀にうるさい姉が自分の部屋には容赦なくドカドカ入って来ていたなと、次郎は思い出した。姉の場合は、近づいてくる気配を察知していつも身構えていたから、勝手に入られてる印象が薄かった。そもそも姉貴の場合は用事というより、部屋の掃除するから出てけだとか、引きこもってないで少しは外に出ろだとか、末姫に変な事教えるなって怒られて、部屋追い出されるのが主だもんな。訪ねてこられてる印象がなかったぜ。そんなことを思って苦笑が漏れた。

 「またなんか失くしたのか?」

 次郎への末姫の用事なんてそれくらいしかない。次郎がそう訊くと、意外なことに末姫は首を横に振った。

 「四兄様に剣の使い方教えてもらってたら、また姉様にダメって言われたの。姉様は、自分は皆を守るために必要だから強くならなきゃいけないけど、わたしには必要ないって。わたしもみんなの役に立ちたいのに、いつもダメっていうの。どうしたらいいの?」

 真剣な目でそう言われて次郎は困った。

 「お姉ちゃんも末姫ちゃんが大切だから、危ないことしてほしくなくてそう言ってるってこと解ってる?」

 そう訊くと、末姫は頷いた。

 「姉貴はさ、本気で俺たちを守るつもりで身体鍛えてんのよ。俺たちを守れるだけの力が欲しくて、訓練してんの。今じゃ四郎の方が強いけど、それでも自分が家族を守る気でいるのよ。それは姉貴にとって譲れないことなんだよ。」

 妹に理解できるかは解らなかったが、次郎は話して聞かせた。

 「末姫ちゃんにはお兄ちゃんたちも、お姉ちゃんもついてる。お兄ちゃんも、お姉ちゃんの言う通り、末姫ちゃんが武器なんて使える様にならなくていいと思うよ。」

 次郎がそう言うと、末姫はみるみる両目に涙をためて、次兄様のバカと言った。

 「次兄様ならなにかいい方法教えてくれると思ったのに。」

 そう言ってぽろぽろ涙を流す妹の頭を、次郎は撫でた。

 「お兄ちゃんの話は最後まで聞きなさい。末姫ちゃんは、戦える人になるんじゃなくて、戦うお姉ちゃんたちを支える人になればいいんじゃない。誰かが怪我した時に治せる人とかさ。」

 次郎の言葉を聞くと、末姫は涙を引っ込めてキョトンとした顔をした。

 「どうせ父さんが出てきたら父さんの所にひっついてんだから、治癒術とか色々役に立ちそうな術式教えてもらえばいいんじゃないの。父さんはなんだって知ってるんだからさ。それなら姉貴も文句言わないだろ。」

 そう言われて末姫は納得した様子だった。

 「武器を振り回すだけが戦い方じゃないからさ、どうしても末姫ちゃんが戦い方を覚えたいっていうなら、お姉ちゃんに内緒でこっそりお兄ちゃんが教えてあげるよ。」

 本当に末姫は戦えなくてもいいと思う、でも護身術ぐらい覚えさせてもいい。それで本人が満足するなら、少しぐらい教えたっていいじゃないか。次郎はそう思った。

 「次兄様、ありがとう。大好き。」

 さっきまで泣いていたのが嘘のように満面の笑みを浮かべて抱き着いてくる妹の頭を撫でて、次郎はため息をついた。さっきはひとの事バカって言ってたくせに、全く都合がいいな。

 「そもそも何で俺のとこ来たんだよ。いつも相談事は三郎だろ。」

 「三兄様はどうしたらいいか教えてくれないからダメなの。悪知恵なら次兄様が一番だって言ってた。」

 それ誰が言ってたんだよ。三郎がそんなこと言うとは思わないけど、あいつがそう言ってたならちょっとショックだぞ。兄弟の中で俺の扱いって本当なんなの。どう思われんの俺。そんなことを考えて次郎は少しだけ泣きたくなった。


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