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乙女は白灰と共に新たな年を迎える③
(何度言ってもグレイ様は聞いてくれないし……結局今も膝は占領されたままだよ)
あれからずっと、グレイアースは膝に居座っている。
既に退いてもらうことは諦めた。なんだかんだでグレイアースの要望を叶えているのだから……と自分に言い聞かせ、大人しくされるがままになっている。
(喜んでくれてるし、まぁいいのかな)
彼の顔を見たら、少しの我儘なら聞いてもいいかと思えてしまう。そんな、知らないうちに心を許している自分を、恥ずかしいような嬉しいような気持ちでマーチェは受け止めていた。
グレイアースの髪を梳きながら時が来るのを待つ。
暫く暖炉で燃える薪の音だけが部屋の中で聴こえーー。
ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン
午前零時。
年を越す音が鳴り響いた。
「新年ですね」
「越えた感じはしないがな」
微笑むグレイアースを見つめながらマーチェも口元を緩める。
「今年もよろしくお願いします、グレイ様」
「こちらこそ。今年もよろしく頼む、マーチェ」
二人は笑い合う。
乙女と白灰は共に年を明け、新たな日々に想いを馳せるのだった。